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  • 【弁護士監修】退職代行は適法?
    安全な退職代行サービスの選び方

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    退職の意向を会社に伝えづらい、あるいは引き止めにあって辞められないといった悩みを抱える方にとって、退職代行サービスは心強い味方です。しかし、その利用を検討する際に「退職代行は違法ではないのか?」「特に弁護士法に違反するリスクはないのか?」といった不安を感じる方も少なくありません。

    2025年10月22日(水)、警視庁は退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(東京都品川区)の本社を、弁護士法第72条違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索しました。

    容疑の概要は、依頼者の退職に伴い交渉が必要となった場合に、同社が報酬を得る目的で弁護士にあっせんしていた疑い、というものです。この事件は、本記事で解説する「使者」と「代理人」の法的な境界線が、実際の摘発へと発展した具体例であり、退職代行サービスを安全に選ぶ上で極めて重要な意味を持ちます。

    【追記:2025年10月24日】

    家宅捜索から2日後の10月24日、株式会社アルバトロスは公式サイト上で声明を発表しました。警視庁の捜査に適切に対応していくとのことですが、顧問弁護士との契約を解除し、役員体制を見直したうえで営業を再開しているのことです。

    結論から言うと、利用者が退職代行サービスを使ったこと自体が違法となり、罰せられることはありません。ただし、サービスを提供する業者側には、法律で定められた業務範囲が存在します。特に、会社との「交渉」を行うかどうかで、その適法性が大きく分かれます。運営主体である「民間企業」「労働組合」「弁護士」の違いを正しく理解しないまま依頼すると、トラブルが悪化したり、支払った費用が無駄になったりする可能性もあります。

    この記事では、退職代行の適法性を判断する上で最も重要な「弁護士法第72条(非弁行為)」の規定をわかりやすく解説し、運営主体ごとの業務範囲の違い、そして安全なサービスを選ぶためのチェックポイントを法的な観点から詳しくご紹介します。

    Contents

    【結論】退職代行の利用は適法。ただし「交渉」の有無で業者の適法性が決まる

    利用者自身が罰せられることはない

    退職代行サービスを利用して会社を辞めること自体は、法的に何ら問題ありません。退職は労働者に認められた権利であり、その意思表示を第三者に依頼したからといって、利用者自身が罪に問われることはまず考えられません。

    民法上、退職の意思表示は会社に到達した時点で効力が生じます。誰がその意思を伝えたか(本人か、代行業者か)は、意思表示の有効性に直接影響しません。

    ⚠️ 重要な留保事項
    本記事は、退職代行の適法性に関する一般原則を解説したものです。
    個別の労働契約条項、就業規則、雇用形態(試用期間中・管理職等)によっては、
    以下の説明と異なる結果となる可能性があります。

    具体的な退職を計画する際は、必ず弁護士等の専門家に相談してください。

    違法リスクは「交渉」を行う業者側にある

    問題となるのは、退職代行サービスを提供する「業者側」の行為です。業者が法律で認められた業務範囲を超えた活動、特に弁護士資格を持たない者が有給休暇の取得や退職日の調整といった「交渉」を行うことは、弁護士法に違反する可能性があります。

    つまり、利用者が心配すべきなのは「自分が罰せられるか」ではなく、「依頼しようとしている業者が違法行為を行うリスクがないか」という点です。違法な業者に依頼してしまうと、退職手続きが滞る、会社とのトラブルが悪化するなど、結果的に利用者自身が不利益を被る恐れがあります。

    退職代行の適法性を分ける最大の壁「弁護士法第72条(非弁行為)」とは?

    退職代行の適法性を語る上で、避けては通れないのが「弁護士法第72条」です。この条文が、なぜ退職代行サービスの業務範囲を制限するのか、その仕組みを理解することが重要です。

    💬 読者の疑問:弁護士法って聞くと難しそう…。退職代行とどう関係するのか、ポイントだけ知りたいな。

    弁護士法第72条が禁じる「非弁行為」の正体

    弁護士法第72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で「法律事件」に関して、鑑定、代理、和解、交渉などの「法律事務」を取り扱うことを禁止しています。このような弁護士資格のない者が行う法律事務を「非弁行為」と呼びます。

    弁護士法第72条(最終改正:令和5年12月29日法律第108号)
    「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

    出典: e‑Gov法令検索 / 弁護士法(昭和24年法律第205号)

    この規定は、法律の専門家ではない者が安易に法律問題に介入し、国民の権利や利益を損なうことを防ぐために設けられています。

    なぜ退職代行で「非弁行為」が問題になるのか?

    退職時には、単に「辞めます」と伝えるだけでなく、様々な法律上の権利や義務が関係してきます。

    • 有給休暇の消化
    • 退職日の調整
    • 未払い残業代や退職金の請求
    • 会社からの損害賠償請求への対応

    これらの事項について、会社側と何らかの話し合いや駆け引きを行うことは、法律上の権利義務に関する「交渉」とみなされる可能性が極めて高いです。したがって、弁護士資格のない民間企業の退職代行業者がこれらの業務を行うと、非弁行為に該当するリスクがあるのです。

    民法における「使者」と「代理人」の決定的な違い

    非弁行為にあたるかどうかを判断する上で重要なのが、「使者」と「代理人」の違いです。

    • 使者(ししゃ)
      • 役割:本人が決めた意思を、そのまま相手に伝えるだけの役割。メッセンジャー。
      • 具体例:「Aさんが『○月○日に退職します」と申しております」と伝える。
      • 特徴:本人の意思決定には一切関与せず、交渉や独自の判断は行わない。
    • 代理人(だいりにん)
      • 役割:本人に代わって意思決定を行い、相手方と交渉などの法律行為を行う権限を持つ。
      • 具体例:依頼者の希望に基づき、会社と退職日を交渉し、合意を取り付ける。
      • 特徴:行った法律行為の効果は、直接本人に帰属する。

    💡 気づき:つまり、民間企業の退職代行は「使者」として本人の伝言を伝えることしかできず、弁護士は「代理人」として交渉までできる、ということですね。

    この違いが、民間企業と弁護士が行う退職代行の業務範囲を根本的に分けています。民間業者ができるのは「使者」の範囲内、つまり一方的な意思の「伝達」に限られるのです。

    【運営主体別】退職代行の業務範囲と法的根拠を比較

    退職代行サービスは、運営主体によって「できること」と「できないこと」が明確に異なります。ここでは「民間企業」「労働組合」「弁護士」の3つのタイプ別に、業務範囲と法的根拠を比較します。

    1. 民間企業:適法なのは「意思の伝達」のみ(使者)

    株式会社などが運営する最も一般的な退職代行サービスです。

    • できること:
      • 本人の退職意思を会社に伝えること
      • 本人が作成した退職届を提出すること
      • 会社からの事務的な連絡(書類のやり取りなど)を本人に取り次ぐこと
    • できないこと(非弁行為リスク):
      • 退職日の交渉
      • 有給休暇取得の交渉
      • 未払い給与や退職金の請求・交渉
    • 法的根拠: 民法における「使者」

    あくまで「使者」として、本人が決めた内容を伝えることに徹します。そのため、会社側が「本人としか話さない」「退職日は認めない」などと交渉を拒否した場合、それ以上の対応は困難です。

    2. 労働組合:労働条件に関する「団体交渉」が可能

    労働組合法に基づいて設立された労働組合が運営するサービスです。

    • できること:
      • 民間企業のできること全て
      • 退職日や有給休暇取得に関する団体交渉
      • 未払い残業代など、労働条件に関する団体交渉
    • できないこと:
      • 慰謝料請求や損害賠償請求など、労働条件以外の交渉
      • 裁判や労働審判における代理人活動
    • 法的根拠: 労働組合法に基づく「団体交渉権」

    労働組合は、労働者の代理として会社と対等な立場で交渉する「団体交渉権」を持っています。これは憲法で保障された強力な権利であり、会社は正当な理由なく交渉を拒否できません。これにより、民間業者では不可能な「交渉」を適法に行うことができます。

    3. 弁護士・弁護士法人:退職に関する一切の「法律行為(代理)」が可能

    弁護士または弁護士法人が直接運営するサービスです。

    • できること:
      • 民間企業、労働組合のできること全て
      • ハラスメントに対する慰謝料請求や、会社からの損害賠償請求への対応
      • 労働審判や訴訟になった場合の代理人活動
    • できないこと: 特になし
    • 法的根拠: 弁護士法

    依頼者の「代理人」として、退職に関するあらゆる法律問題に対応できます。交渉はもちろん、万が一裁判に発展した場合でも、そのまま代理人として活動できるのが最大の強みです。

    ひと目でわかる業務範囲の比較表

    各運営主体の違いをまとめると、以下のようになります。

    業務内容民間企業労働組合弁護士
    退職意思の伝達
    退職日の交渉
    (非弁行為リスク)
    有給休暇取得の交渉
    (非弁行為リスク)
    未払い賃金等の請求・交渉
    (非弁行為リスク)
    損害賠償請求・対応
    (非弁行為リスク)
    裁判・労働審判での代理
    (非弁行為リスク)
    法的根拠民法(使者)労働組合法弁護士法

    退職代行でよくある誤解と注意点

    退職代行サービスを選ぶ際には、広告の表現などに惑わされず、その実態を正しく理解しておく必要があります。

    誤解1:「弁護士監修」なら交渉も安心?→答えはNo

    多くの民間業者が「弁護士監修」をアピールしていますが、これは大きな落とし穴です。

    • 弁護士監修とは: サービス内容や利用規約が法律に抵触しないか、外部の弁護士がチェック・助言すること。
    • 弁護士運営とは: 弁護士・弁護士法人自身がサービス提供の主体となること。

    「監修」は、あくまでアドバイザーの立場であり、その民間業者に交渉権限を与えるものではありません。交渉を行えるのは、行為主体が「労働組合」または「弁護士」である場合に限られます。「弁護士監修」という言葉だけで「交渉もできる」と判断するのは非常に危険です。

    実例:問題視された「有償あっせん」の仕組み

    東京弁護士会等の指摘や報道によると、一部の民間退職代行業者は以下のような構造で、弁護士法違反に該当する可能性が指摘されています。

    1. 利用者から「有給消化や退職金の交渉をしてほしい」と依頼を受ける
    2. 民間業者自身は「交渉」を行わず、その案件を提携する外部の弁護士に有償で紹介(あっせん)する
    3. 弁護士が交渉等を行い、その報酬の一部が紹介料として民間業者に支払われる

    このモデルは、民間業者が間接的に「法律事務の周旋」を業としているとみなされる可能性があり、これが弁護士法第72条の「周旋」を禁止する規定に抵触するおそれがあるのです。

    誤解2:どの業者でも有給消化や未払い賃金の請求ができる?

    できません。前述の比較表の通り、有給消化や未払い賃金に関する会社との話し合いは「交渉」にあたります。したがって、これらの対応を適法に行えるのは、団体交渉権を持つ「労働組合」か、代理権を持つ「弁護士」運営のサービスのみです。

    単に退職の意思を伝えるだけでよく、交渉事が一切ない場合に限り、民間企業のサービスが選択肢となります。

    誤解3:会社が拒否したらお金が無駄になる?

    これは運営主体によって異なります。

    • 民間企業の場合: 会社側が「代行業者とは話さない」と交渉を完全に拒否した場合、業者は「意思は伝えました」という報告しかできず、それ以上は手出しできません。多くの業者では返金保証がないため、費用が無駄になるリスクがあります。
    • 労働組合・弁護士の場合: 会社は正当な理由なく団体交渉や代理人との交渉を拒否できません。もし拒否すれば、不当労働行為や、さらなる法的措置につながる可能性があるため、会社側も無視しにくい状況になります。

    違法(非弁行為)の退職代行業者を選んでしまうとどうなる?

    万が一、業務範囲を超えて交渉を行うような違法な民間業者に依頼してしまった場合、利用者には直接的な罰則はありませんが、深刻な不利益が生じる可能性があります。

    リスク1:支払った費用が無駄になる

    会社が「弁護士以外とは交渉しない」という毅然とした態度を取った場合、非弁業者はお手上げ状態になります。退職の意思は伝わっても、肝心の交渉事が何も解決しないままサービスが終了し、支払った料金が戻ってこないケースが考えられます。

    リスク2:会社とのトラブルが悪化・長期化する

    法律知識のない業者が中途半端に交渉を試みた結果、かえって会社の態度を硬化させ、感情的な対立を招くことがあります。本来であればスムーズに解決できたはずの問題がこじれ、解決までにより多くの時間と労力がかかる可能性があります。

    リスク3:退職手続きが全く進まない

    業者が非弁行為を行ったことで会社との信頼関係が完全に損なわれ、退職に必要な書類の発行を拒否されるなど、事務手続きが停滞するリスクもあります。結果的に、円満な退職どころか、泥沼の紛争に発展しかねません。

    安全・適法な退職代行サービスを選ぶための3つのチェックポイント

    ここまで解説してきた内容を踏まえ、自分に合った安全な退職代行サービスを選ぶための具体的なチェックポイントを3つご紹介します。

    Point1:交渉したいことがあるか明確にする

    まず最初に、ご自身の状況を整理しましょう。

    • 交渉は不要: 「とにかく辞める意思さえ伝わればいい」という場合 → 民間企業も選択肢
    • 交渉が必要: 「有給を全て消化したい」「退職日を調整したい」「未払い残業代を請求したい」という場合 → 労働組合または弁護士

    この切り分けが、業者選びの最も重要な第一歩です。

    Point2:運営主体が誰か(法人名・代表者)を確認する

    サービスの公式サイトにある「会社概要」や「運営者情報」を必ず確認しましょう。

    • 株式会社、合同会社など: 民間企業です。「交渉」はできません。
    • 〇〇労働組合: 労働組合です。労働条件に関する「団体交渉」が可能です。
    • 弁護士法人〇〇法律事務所、弁護士 〇〇: 弁護士運営です。一切の「法律行為(交渉、請求、訴訟代理など)」が可能です。

    「弁護士監修」の文字だけに惑わされず、実際にサービスを提供しているのが誰なのかを正確に把握することが不可欠です。

    Point3:「交渉可能」と謳う民間業者は避ける

    もし、運営元が「株式会社」であるにもかかわらず、ウェブサイト上で「会社と退職日を交渉します」「有給消化を100%サポート」といった、交渉を代行するかのような表現を使っている業者は、弁護士法違反(非弁行為)のリスクに対する認識が低い可能性があります。トラブルに巻き込まれないためにも、利用は避けるのが賢明です。

    退職代行の適法性に関するQ&A

    Q. 退職代行を使ったら、会社から損害賠償請求されませんか?

    A. 退職代行を使ったこと自体を理由に損害賠償請求されることは、法的には考えにくいです。損害賠償が認められるのは、例えば「重要なプロジェクトの途中で、適切な引き継ぎもせず突然出社しなくなったことで会社に実害が生じた」など、退職の仕方に著しい問題があった場合に限られます。これは退職代行の利用有無とは別の問題です。万が一、会社から損害賠償を請求された、あるいはその可能性を示唆された場合は、弁護士運営の退職代行サービスに相談するのが最も安全です。

    Q. 公務員でも退職代行は使えますか?

    A. はい、利用できます。ただし、公務員の退職手続きは、任命権者の許可が必要など、民間の会社員とは異なる法律(国家公務員法や地方公務員法など)が適用される場合があります。そのため、公務員の退職代行実績が豊富な業者、特に法律の専門家である弁護士が運営するサービスに相談することをお勧めします。

    Q. 違法な業者に依頼してしまったらどうすればいいですか?

    A. まずはサービスの利用を中止し、支払った費用の返金を求めましょう。応じてもらえない場合や、業者とのやり取りでトラブルになった場合は、お近くの消費生活センターや弁護士に相談してください。もし、その業者によって会社とのトラブルが悪化してしまった場合は、改めて弁護士運営の退職代行サービスに依頼し、法的な観点から状況を整理し直してもらう必要があります。

    まとめ:交渉ごとがあるなら弁護士か労働組合へ相談を

    退職代行サービスの利用自体は適法であり、利用者自身が罰せられることはありません。しかし、その適法性は業者の「業務範囲」によって決まります。

    • 意思の「伝達」のみ:民間企業でも可能。
    • 労働条件の「交渉」が必要:労働組合が適法に行える。
    • 交渉に加え、損害賠償請求や訴訟の可能性もある:弁護士のみが対応可能。

    この違いを理解しないまま、特に「弁護士監修」という言葉のイメージだけで民間業者が交渉まで行ってくれると誤解すると、トラブルを招く原因となります。

    ご自身の状況を冷静に分析し、「会社と交渉したいことがあるか」を基準に運営主体を選ぶことが、安全かつ確実に退職するための最も重要なポイントです。もし少しでも交渉が必要だと感じたら、迷わず労働組合か弁護士が運営する退職代行サービスに相談しましょう。
    弊所でも退職代行についてのご相談を受けておりますので、ご気軽にご相談ください。


    免責事項

    本記事は、退職代行サービスの適法性に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の状況については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、本記事の内容は、記事公開時点の法令等に基づいております。最新の法改正や、個別の労働契約・就業規則の内容が最優先される点にご留意ください。

    参考資料



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2022年に植野法律事務所を開所。

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