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    【図解】下請法との違いと実務チェックリスト

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    「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)は、2024年11月1日に施行されました。この法律は、フリーランスとして働く人々を不当な取引から保護することを目的としており、発注者である企業には新たな義務や禁止事項が課されています。

    さらに、この法律の「解釈ガイドライン」は令和7年(2025年)10月1日に改正されており、令和8年(2026年)1月1日から新たなルールが適用される予定です。多くの企業担当者様が「現在の法律で何をすべきか?」「2026年の改正に向けて何を準備すればよいのか?」といった疑問をお持ちのことでしょう。

    本記事では、フリーランス新法の概要から、企業が現在対応すべき実務的なステップ、そして2026年1月からの変更点までを網羅的に解説します。特に、多くの担当者が混乱しがちな下請法との適用関係についても、図解を交えて分かりやすく整理します。この記事を読めば、貴社が取るべき具体的なアクションプランが明確になり、安心して法改正に対応できるようになります。

    フリーランス新法への対応を始めるにあたり、まずは法律の根幹となる3つの基本ポイントを理解することが重要です。

    Contents

    ポイント1:フリーランスを不当な取引から保護するための法律

    フリーランス新法は、事業者と対等な立場で交渉することが難しいフリーランスを保護し、安定した環境で能力を発揮できるようにすることを目指しています。

    具体的には、発注者による一方的な報酬の減額や、成果物の受領拒否といった優越的地位の濫用にあたるような行為を規制し、公正な取引関係を築くためのルールを定めています(出典:公正取引委員会, 2024)。

    ポイント2:対象は「従業員のいない個人・一人法人」との取引

    この法律の大きな特徴は、保護の対象となるフリーランスを「特定受託事業者」として明確に定義している点です。具体的には、以下のいずれかに該当する事業者が対象となります。

    • 従業員を使用しない個人事業主
    • 代表者1名のみの法人(役員が他にいない、いわゆる「一人社長」の会社)

    そして、これらの「特定受託事業者」に業務を委託する、従業員を使用する事業者が「特定業務委託事業者」として法律上の義務を負うことになります。

    ポイント3:法律は既に施行済み(2024年11月1日)。令和8年1月1日の改正に向けた準備が必須

    フリーランス新法は2024年11月1日に施行済みであり、現在、既に多くの企業が本法律に基づいた業務委託を行っています。

    同時に、令和8年(2026年)1月1日から、法律の「解釈ガイドライン」が改正される予定です。企業は現在稼働中の既存契約について、新ルール施行に向けた対応(契約書の見直し、支払い条件の調整等)を進める必要があります。

    【図解】フリーランス新法の適用対象となる事業者と取引

    フリーランス新法が自社の取引に適用されるかどうかを判断するためには、当事者である「発注者」と「受注者」がそれぞれ法律上の定義に当てはまるかを確認する必要があります。

    発注者:「特定業務委託事業者」の定義

    法律上の義務を負う発注者は「特定業務委託事業者」と呼ばれ、以下の条件を満たす事業者を指します。

    • 法人または個人事業主
    • 従業員を使用している

    ここでのポイントは「従業員の有無」です。自社に一人でも従業員がいれば、フリーランスに業務を委託する際に特定業務委託事業者に該当する可能性があります。

    なるほど、発注者側に「従業員がいる」ことが一つの要件なんですね。逆に言えば、従業員がいない個人事業主がフリーランスに外注するケースは、この法律の対象外になるんだ。

    受注者:「特定受託事業者」の定義

    法律による保護の対象となる受注者は「特定受託事業者」と呼ばれ、以下のいずれかの条件を満たす事業者を指します。

    • 従業員を使用していない個人事業主
    • 代表者以外に役員がおらず、かつ、従業員を使用していない法人

    ここでの「従業員」には、いわゆる正社員だけでなく、週の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがあるパート・アルバイト等も含まれる点に注意が必要です。

    対象外となるケースとは?

    上記の定義から、以下のようなケースはフリーランス新法の適用対象外となります。

    • 発注者側が、従業員を一人も使用していない個人事業主や法人である場合
    • 受注者側が、従業員を一人でも使用している個人事業主や法人である場合
    • 受注者側が、代表者以外にも役員がいる法人である場合

    これらのケースでは、フリーランス新法は適用されませんが、取引内容や資本金規模によっては後述する「下請法」が適用される可能性があるため、注意が必要です。

    【注記】令和8年改正の影響

    上記の定義は、令和8年(2026年)1月1日までの現行ルールに基づいています。同日施行予定の改正「考え方」により、対象事業者の範囲やその他の定義が一部変更される可能性があります。改正内容の詳細は、公正取引委員会及び厚生労働省の公式ガイドラインをご確認ください。

    企業に課される6つの主な義務【何をすべきか】

    ※以下、本セクションおよび次セクションで言及する条文番号は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」のものです。

    フリーランス新法では、発注者である特定業務委託事業者に対して、主に6つの義務を課しています。これらは企業の担当者が具体的に対応すべき項目です。

    1. 取引条件の明示義務(法第3条)

    フリーランスに業務を委託する際、以下の項目を含む取引条件を、書面またはメールなどの電磁的方法で速やかに明示しなければなりません。

    • 給付(成果物)の内容
    • 報酬の額
    • 支払期日
    • その他、公正取引委員会規則で定める事項

    口頭での発注や、内容が曖昧な発注は認められず、トラブル防止のために取引内容を明確に書面化することが求められます。

    (記載例)
    ・業務内容:〇〇に関するWeb記事の作成(仕様は別途指示書に定める)
    ・報酬額:50,000円(消費税別途)
    ・支払期日:成果物の検収完了日が属する月の末日締め、翌月末日払い

    2. 報酬の支払期日設定義務(法第4条)

    報酬の支払期日は、フリーランスから成果物等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなければなりません。「月末締め翌々月末払い」のような従来の商慣習が、場合によっては違法となる可能性があるため、自社の支払いサイトを見直す必要があります。

    3. 継続的業務委託における中途解除等の予告義務(法第13条)

    一定期間以上(政令により1ヶ月以上と定められています)の継続的な業務委託契約を途中で解除する場合や、契約を更新しない場合には、原則として30日前までにその旨を予告する義務があります。ただし、フリーランス側に契約違反などがあった場合はこの限りではありません。

    4. 募集情報の的確な表示義務(法第12条)

    フリーランスを募集する際に、広告などで業務内容や報酬について虚偽の表示をしたり、誤解を生じさせたりする表示をすることは禁止されます。

    5. ハラスメント対策に関する体制整備義務(法第14条)

    業務に関連して、発注企業の従業員等がフリーランスに対して行うハラスメント(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント等)を防止するため、相談窓口の設置や研修の実施など、必要な体制を整備する義務が課されます。

    6. 育児介護等への配慮(法第12条)※努力義務

    継続的な業務委託を行うフリーランスから、育児や介護との両立のために配慮を求める申し出があった場合、その状況に配慮するよう努めなければなりません。これは法的な「義務」ではなく、「努力義務」とされていますが、企業として誠実な対応が求められます。

    企業に対する4つの主な禁止事項【何をしてはいけないか】

    フリーランス新法は、発注者による一方的な行為を防ぐため、下請法と同様の禁止事項を定めています。これらの行為は、フリーランス側に責任がない限り、行ってはなりません。

    1. 受領拒否・報酬の減額・返品(法第5条)

    発注した成果物について、フリーランス側に責任がないにもかかわらず、受領を拒否したり、報酬を一方的に減額したり、納品物を返品したりすることは禁止されます。

    2. 買いたたき・不当な経済上の利益提供要請(法第5条)

    通常の対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めたり、協賛金の提供など、業務内容とは関係のない経済上の利益を提供するよう不当に要請したりすることは禁止されます。

    3. やり直しの強制(法第5条)

    フリーランス側に責任がないにもかかわらず、無償で追加の作業ややり直しをさせることも禁止行為にあたります。修正を依頼する場合は、その費用負担について別途協議が必要です。

    下請法の禁止行為との関係性

    これらの禁止事項は、下請法で定められている親事業者の禁止行為とほぼ同じ内容です。フリーランス新法は、これまで下請法ではカバーしきれなかった、資本金規模の小さい事業者間の取引などにも同様の規律を及ぼすものと理解しておくと良いでしょう。

    フリーランス新法と下請法の違いは?適用関係をケース別に解説

    フリーランス新法と下請法、どっちも似たようなルールがあるけど、結局うちの会社はどっちを気にすればいいんだろう?使い分けがよくわからないな…。

    企業の法務・事業担当者にとって、最も重要なのがフリーランス新法と下請法の適用関係を正しく理解することです。

    違いのポイントは「資本金規模」vs「従業員の有無」

    両者の最大の違いは、法律が適用されるかどうかを判断する基準にあります。

    • 下請法: 発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)の「資本金規模」の組み合わせで適用が決まる。
    • フリーランス新法: 発注者と受注者の「従業員の有無」で適用が決まる。

    つまり、フリーランス新法は、下請法が適用されないような、資本金規模の小さい発注者による取引も規律の対象とする、いわば「セーフティネット」としての役割を担っています。

    比較軸フリーランス新法下請法
    判断基準発注者・受注者の従業員の有無発注者・受注者の資本金規模
    保護対象(受注者)特定受託事業者(従業員のいない個人・一人法人)下請事業者(資本金が一定額以下の事業者)
    規制対象(発注者)特定業務委託事業者(従業員を使用する事業者)親事業者(資本金が一定額以上の事業者)
    フリーランス新法と下請法の主な違い

    【フローチャート】自社の取引はどちらが適用される?

    ある取引について、両方の法律が適用されうる場合、原則として下請法が優先して適用されます。自社の取引がどちらに該当するかは、以下のフローチャートで確認できます。

    【img2】フリーランス新法 vs 下請法 適用判断フローチャート(画像挿入箇所)

    ケーススタディで見る適用関係の具体例

    • ケース1:資本金5,000万円の企業が、個人事業主(従業員なし)にWebデザインを委託
      • 下請法の資本金要件を満たすため、下請法が適用されます。フリーランス新法の要件も満たしますが、下請法が優先されます。
    • ケース2:資本金500万円の企業(従業員あり)が、個人事業主(従業員なし)に記事執筆を委託
      • 発注者の資本金が1,000万円以下のため、下請法は適用されません。
      • しかし、発注者は従業員を使用し、受注者は従業員を使用していないため、フリーランス新法が適用されます。
    • ケース3:資本金500万円の企業(従業員あり)が、法人(従業員5名)にシステム開発を委託
      • 受注者(フリーランス)が従業員を使用しているため、フリーランス新法は適用されません。
      • 発注者と受注者の資本金規模から、下請法も適用されません。
      • この場合、両法とも適用されませんが、独占禁止法(優越的地位の濫用)などが適用される可能性は残ります。

    【施行済み】企業のフリーランス新法対応 実務チェックリスト

    本法律は2024年11月1日に既に施行されており、現在、多くの企業が対応中です。以下は、既に実施すべき対応と、2026年1月1日の改正に向けた先制的確認項目を一覧化したものです。以下のチェックリストに沿って自社の対応状況を確認し、特にStep2の契約書改訂などは、2026年の改正内容を織り込んで再点検することをお勧めします。

    ステップ対応項目チェックポイント
    Step1既存取引の洗い出しと適用対象の整理□ 現在取引のある業務委託先をリストアップしたか?
    □ 各委託先が「特定受託事業者」(従業員なしの個人等)に該当するか確認したか?
    Step2契約書・発注書雛形の改訂□ 法第3条の明示事項(報酬、支払期日等)が網羅されているか?
    □ 支払期日が「受領後60日以内」のルールに準拠しているか?
    □ 一方的な中途解除が可能となるような条項がないか見直したか?
    Step3社内規程・業務マニュアルの整備□ 発注から支払いまでの業務フローが新法に対応しているか?
    □ 継続的契約の中途解除に関する社内ルールを定めたか?
    Step4発注担当者への研修実施□ フリーランス新法の概要、義務、禁止事項について研修を実施したか?
    □ 下請法との違いや適用関係について担当者が理解しているか?
    Step5ハラスメント相談窓口の設置と周知□ フリーランスからのハラスメント相談を受け付ける窓口を設置したか?
    □ 相談窓口の存在を取引先のフリーランスに周知する方法を確立したか?
    フリーランス新法対応 実務チェックリスト

    違反した場合の罰則・行政措置

    フリーランス新法の義務違反や禁止行為が認められた場合、国(公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)は、段階的に行政措置を講じることができます。

    1. 助言・指導: 事業者に対して、法令遵守のための助言や指導が行われます。
    2. 報告徴収・立入検査: 必要に応じて、事業者への報告要求や立入検査が実施されます。
    3. 勧告・公表: 違反行為が認められた場合、是正を求める勧告が出され、勧告に従わない場合はその事実が公表される可能性があります。
    4. 命令・罰則: さらに命令が出され、その命令に違反した場合には、50万円以下の罰金が科されることがあります(出典:中小企業庁, 2024, p.4)。

    企業のレピュテーションリスクを考慮すると、勧告・公表の段階でも大きなダメージとなりうるため、法令遵守体制の構築が不可欠です。

    令和8年改正による執行強化

    下請法も2026年1月1日に改正施行が予定されており、フリーランス新法の執行体制も拡充される予定です。事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与され、面的執行がより強化されることが予想されるため、企業としては改めてコンプライアンス体制を再点検する必要があります。

    Q&A|フリーランス新法に関するよくある質問

    Q. 既に契約済みのフリーランスとの取引にも適用されますか?

    A. フリーランス新法は、施行日である2024年11月1日以降に開始された業務委託取引に適用されます。施行日をまたいで継続している契約についても、施行日以降の取引部分には新法が適用されていますので、既存の契約内容を見直す必要があります。

    Q. 支払いサイトが「月末締め翌々月末払い」の場合、違法になりますか?

    A. 違法になる可能性が高いです。例えば、10月1日に納品・受領した場合、支払期日はそこから60日以内である11月30日までとしなければなりません。「10月末締め12月末払い」では、この期間を超えてしまいます。自社の支払いサイトが、いかなる納品日であっても「受領後60日以内」のルールを遵守できるか、確認が必要です。

    Q. 海外のフリーランスとの取引にも適用されますか?

    A. フリーランス新法は日本の法律であり、その適用範囲(域外適用)については、今後のガイドライン等で詳細が示されると考えられます。一般的には、契約の準拠法や紛争解決地が日本に設定されている場合や、取引の実態が主に日本国内で行われている場合には、適用される可能性が高いと考えられます。

    【重要】令和8年(2026年)1月1日の改正と今後の対応

    フリーランス新法の「解釈ガイドライン」は令和7年(2025年)10月1日に改正されており、令和8年(2026年)1月1日から新たな内容が施行されます。

    現在、既存の業務委託契約の多くは改正前の「解釈ガイドライン」に基づいて構築されていますが、2026年1月1日以降は新ルールが適用される点に注意が必要です。

    企業がこの機会に確認すべき点:

    • 既存契約の継続部分への新ルール適用: 2026年1月1日以降、継続中の契約であっても、新ルールに基づいた対応が求められる可能性があります。
    • 支払条件等の先制的見直し: 現在の支払いサイトやその他の取引条件が、改正後のガイドラインに準拠しているか、事前確認が推奨されます。
    • 下請法改正との連動: 下請法も2026年1月1日施行予定です。両法の改正を一括で対応する機会として、この時期を活用してください。

    最新の「解釈ガイドライン」及び解釈については、公正取引委員会及び厚生労働省の公式サイトで逐次公開される情報を確認してください。

    まとめ|安定した取引関係構築の第一歩として新法対応を

    本記事では、2024年11月1日に施行されたフリーランス新法について、企業の担当者が押さえるべきポイントと、2026年1月の改正も見据えた具体的な対応策を解説しました。

    • フリーランス新法は、従業員のいない個人・一人法人を保護する法律である
    • 適用判断の鍵は、下請法の「資本金規模」に対し、新法は「従業員の有無」である
    • 企業には「取引条件の明示」や「60日以内の支払い」などの義務が課される
    • 施行済みの現行法に加え、2026年1月の改正に向けた「契約書の見直し」や「社内体制の再整備」が必須である

    フリーランス新法への対応は、単なる法務・コンプライアンス上の課題ではありません。公正な取引ルールを整備し、フリーランスとの良好で安定したパートナーシップを築くことは、多様な人材を活用し、企業の競争力を高める上でも非常に重要です。この記事のチェックリストを参考に、法改正に向けた準備を着実に進めていきましょう。

    免責事項

    本記事は、2025年10月25日時点における「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)に関する一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な案件に対する法的アドバイスを提供するものではありません。

    本法律の「解釈ガイドライン」は令和7年(2025年)10月1日に改正されており、令和8年(2026年)1月1日から新ルールが適用されます。既存の業務委託契約の継続部分であっても、改正後は新ルールが適用される可能性があります。法律の解釈や適用は、具体的な事実関係によって異なるため、最新の公正取引委員会・厚生労働省の公式ガイドラインを確認し、弁護士等の専門家にご相談の上、対応してください。

    参考資料



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年よりプライム上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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