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  • 医薬品広告ガイドライン|薬機法の注意点とNG表現、課徴金リスクを解説

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    医薬品の広告担当者になったものの、「どこまでが許容範囲?」「この表現は誇大広告にならないか?」と不安に感じることはありませんか。特に、SNS広告やインフルエンサーマーケティングが主流となる中で、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規制はますます複雑化しています。体験談に「※個人の感想です」と付ければ大丈夫、と考えているなら、それは大きなリスクを伴う誤解かもしれません。

    本記事執筆時点(2025年10月29日)、2025年5月14日に改正薬機法が参議院本会議で可決・成立し、同月21日に公布されました。同改正は、デジタル化の進展と医薬品アクセスの向上を目指すもので、一部の経過措置を除き、2025年11月20日以降に段階的に施行されます。

    この記事では、医薬品広告に関わる全ての方が知っておくべき薬機法の基本から、厚生労働省が定める「医薬品等適正広告基準」の具体的なNG表現、2021年に厳罰化された課徴金制度、媒体別の注意点までを網羅的に解説します。実務ですぐに使えるチェックリストも提供し、コンプライアンスを遵守した適切な広告活動をサポートします。

    医薬品広告のルールを理解する上で、まず「医療広告」との違いを明確に区別することが不可欠です。両者は規制する法律も対象も全く異なります。この違いを混同すると、意図せず法令違反を犯してしまう可能性があります。

    Contents

    規制対象は「モノ(製品)」か「サービス(医療行為)」か

    最も根本的な違いは、規制の対象です。

    • 医薬品広告(薬機法): 医薬品や医療機器といった「モノ(製品)」そのものの品質、有効性、安全性に関する広告を規制します。
    • 医療広告(医療法): 病院やクリニックといった「医療機関が提供するサービス(医療行為)」に関する広告を規制します。

    この記事で主に解説するのは、前者の「医薬品広告」に関するルールです。

    根拠となる法律・ガイドラインの違い

    規制対象が異なるため、準拠すべき法律やガイドラインも異なります。

    医薬品広告医療広告
    規制対象医薬品・医療機器等の「モノ(製品)」病院・診療所等の「サービス・場」
    根拠法薬機法医療法
    主要ガイドライン医薬品等適正広告基準(最終改正:平成29年9月29日、厚生労働省医薬・生活衛生局長通知 薬生発0929第4号)医療広告ガイドライン
    監督官庁厚生労働省、都道府県薬務主管課厚生労働省、都道府県医務主管課、保健所
    主な禁止事項の例・承認範囲外の効能効果の標ぼう
    ・安全性の保証
    ・効能効果に関する体験談の利用
    ・比較優良広告
    ・治療前後の写真(詳細説明なし)
    ・患者の体験談

    💡 気づき: 問い合わせ先が「薬務主管課」か「医務主管課」か、という点も大きな違いですね。広告内容について相談する際は、正しい窓口を選ぶ必要があります。

    医薬品広告の根幹「薬機法」の3大規制

    医薬品広告は、主に薬機法によって厳しく規制されています。その中でも、特に広告担当者が押さえておくべき3つの重要な条文と、そもそも何が「広告」に該当するのかという定義について解説します。

    💬 読者の疑問: SNSでの個人的な感想の投稿も「広告」として規制されることがあるって本当?

    第66条:虚偽・誇大広告の禁止

    薬機法第66条は、医薬品広告規制の最も基本的なルールです。

    第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
    2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

    (出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)

    この条文から読み取れるポイントは以下の2点です。

    • 虚偽・誇大な表現の禁止: 事実でないことや、事実を過度に良く見せる表現は認められていません。「暗示的」な表現も含まれるため、直接的でなくても消費者に誤解を与える表現は違反と判断される可能性があります。
    • 医師等の保証と誤解させる表現の禁止: 「医師推薦」や「専門家が絶賛」といった表現は、たとえ事実であっても、その効果や安全性を医師が保証しているかのような誤解を消費者に与えるおそれがあるため、原則として禁止されています。

    第68条:承認前医薬品の広告禁止

    薬機法第68条では、国から製造販売の承認を受ける前の医薬品や医療機器について、その名称、製造方法、効能効果に関する広告を全面的に禁止しています。これは、有効性や安全性が科学的に確認されていない製品が市場に出回り、国民の健康に被害を及ぼすことを防ぐための重要な規定です。

    そもそも薬機法における「広告」の3要件とは?

    上記の規制は、薬機法上の「広告」と判断された場合に適用されます。厚生労働省の通知により、広告に該当するかどうかは、以下の3つの要件を総合的に考慮して判断されるとされています。

    1. 顧客を誘引する意図が明確であること(誘引性): 顧客の購入意欲を掻き立てる意図があるか。
    2. 特定の商品名が明らかにされていること(特定性): 特定の医薬品名などが示されているか。
    3. 一般人が認知できる状態であること(認知性): インターネットやテレビ、雑誌など、誰でも見聞きできる状態にあるか。

    この3要件を満たす場合、たとえ個人のSNS投稿やブログ、アフィリエイトサイトであっても「広告」と見なされ、薬機法の規制対象となる可能性があります。

    具体的なNG表現がわかる「医薬品等適正広告基準」10のポイント(最終改正:平成29年9月29日 薬生発0929第4号)

    薬機法の内容をさらに具体化し、実務上の判断基準を示したものが、厚生労働省の通知である「医薬品等適正広告基準」です。ここでは、特に注意すべき10のポイントを抜粋して解説します。

    ① 承認範囲を超える効能効果の表現

    医薬品は、原則として承認された効能・効果の範囲内でのみ広告することが認められています。

    • NG例: 解熱鎮痛薬について、承認されていない「血液をサラサラにする」といった効果を標ぼうする。
      *※上記のような表現は、薬機法第66条に違反するおそれがあります。

    ② 安全性の保証表現(「副作用なし」など)

    医薬品には必ず副作用のリスクが伴います。安全性を保証するような表現は、消費者に誤解を与え、適切な使用を妨げるため、薬機法第66条に違反する可能性があり、厳しく禁止されています。

    • NG例: 「副作用の心配は一切ありません」「天然成分だから100%安全」

    ③ 医療関係者や著名人の推薦表現

    薬機法第66条第2項で触れた通り、医師、歯科医師、薬剤師などの医療関係者や、研究者、著名人が推薦しているかのような表現は、たとえ事実であっても原則として使用できません。

    • NG例: 「〇〇大学病院の医師も認めた成分」「女優の△△さんも愛用」

    ④ 他社製品の誹謗広告

    自社製品の優位性を示すために、他社製品の品質や効果について誹謗中傷するような広告は、品位を損なうものとして認められていません。

    • NG例: 「A社の製品は効果が薄いですが、当社の製品は違います」

    ⑤ 効果発現までの時間や効果持続の保証

    効果が現れるまでの時間や、効果が持続する期間を保証する表現は、個人差があるにもかかわらず断定的な印象を与えるため、誇大広告と見なされる可能性があります。

    • NG例: 「服用後わずか10分で効く」「24時間効果が持続します」

    ⑥ 使用者の体験談の利用(「※個人の感想です」は通用しない)

    医薬品広告において、効能効果や安全性に関する個人の体験談を広告に利用することは、原則として認められていません。これは、個人の感想が、その医薬品の客観的な効果であるかのような誤解を与えるためです。

    • NG例: 「この薬のおかげで長年の痛みが消えました。(※個人の感想です)」
      💡 気づき: 健康食品の広告ではよく見る「※個人の感想です」という注釈ですが、医薬品広告では通用しない、と覚えておくことが重要です。規制の厳しさが全く違います。

    ⑦ 不快、不安、恐怖を煽る表現

    使用前後の写真やイラストなどで、いたずらに不安や恐怖感を煽り、購入を促すような表現は、品位を欠くものとして認められていません。

    • NG例: 症状の深刻な画像を提示し、「このままでは手遅れに…」といった表現を用いる。

    ⑧ 最大級表現(「最高」「日本一」など)

    客観的な裏付けが乏しいにもかかわらず、「最高」「最大」「日本一」といった最上級の表現を用いることは、誇大広告に該当する可能性があります。

    • NG例: 「世界初の最新技術で開発」「最高の鎮痛効果」

    ⑨ 医薬品の懸賞や景品としての提供

    医療用医薬品はもちろん、一般用医薬品であっても、過剰な景品付き販売や懸賞の賞品とすることは、不適切な使用を助長するおそれがあるため制限されています。

    ⑩ 特定疾病用医薬品の一般人向け広告

    がん、肉腫、白血病など、医師の監督下でしか使用できない特定の疾病用の医薬品について、一般人を対象とした広告を行うことは薬機法第67条で禁止されています。

    【2021年改正】厳罰化された薬機法の課徴金制度とは?

    2021年8月1日に施行された改正薬機法により、虚偽・誇大広告に対するペナルティとして「課徴金制度」が導入されました。これにより、違反した場合の金銭的リスクが大幅に増大しました。

    課徴金制度の概要と対象となる違反行為

    課徴金制度は、薬機法第66条第1項に違反する虚偽・誇大広告を行い、不当な経済的利益を得た事業者に対して、その利益を徴収する制度です。広告主である製薬会社はもちろん、場合によっては広告代理店やアフィリエイターなども対象となる可能性があります。

    課徴金額の算定方法(売上の4.5%)と実際の納付命令事例

    課徴金の額は、原則として、違反を行っていた期間中における対象商品の売上額の4.5%と定められています。
    例えば、違反広告によって1億円の売上があった場合、450万円の課徴金が課される計算になります。
    厚生労働省は実際に課徴金の納付を命じた事例を公表しており、事業者は広告表現に対してより一層の注意を払う必要があります。

    公表日対象企業対象製品違反内容(要旨)課徴金額
    令和5年3月28日A社経口医薬品承認された効能効果(肥満症)の範囲を逸脱し、痩身効果を標ぼうする広告約1,500万円
    令和6年3月26日B社経口医薬品承認された効能効果(関節痛の緩和)の範囲を逸脱し、変形性膝関節症の進行抑制等の効果を標ぼうする広告約5,000万円
    ※本表は説明目的の架空計算例です。実際の課徴金納付命令事例は、厚生労働省の公式サイトで定期的に公表されています。最新の実例について、またはご自身のケースに当てはまるかについては、管轄の都道府県薬務課または厚生労働省にお問い合わせください。

    【媒体別】Web・SNS・インフルエンサー広告の注意点

    インターネット広告が主流となった現代では、媒体の特性に応じた注意が必要です。薬機法の「広告」の3要件を満たせば、あらゆる媒体が規制対象となります。

    アフィリエイト広告における広告主の責任

    アフィリエイターが作成した記事やサイトであっても、そこで行われた虚偽・誇大広告の責任は、原則として広告主(製薬会社など)が負うことになると解されています。広告主は、アフィリエイトサイトの内容を定期的に監視し、不適切な表現があれば修正を指示する体制を構築する義務があります。

    インフルエンサーマーケティング特有のリスクと管理体制

    インフルエンサーによるPR投稿も、薬機法上の「広告」に該当する可能性があります。広告主は、インフルエンサーに対して薬機法のルールを十分に説明し、投稿内容を事前に確認するプロセスが不可欠です。インフルエンサー個人の感想として投稿されたものであっても、それが医薬品の効能効果をうたうものであれば、薬機法違反に問われるリスクがあります。

    UGC(ユーザー投稿)を広告に利用する際の落とし穴

    UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)とは、一般消費者によるSNS投稿やレビューなどを指します。これらを自社の広告(公式サイトやLPへの掲載など)に利用する場合、そのUGCは「広告」と見なされる可能性があります。
    たとえ元の投稿が消費者の自発的なものであっても、それを広告利用した時点で、薬機法の規制対象となります。内容に体験談や承認範囲外の効果が含まれてあれば、薬機法違反となるため注意が必要です。

    薬機法だけじゃない!景品表示法による二重規制のリスク

    医薬品広告は薬機法だけでなく、景品表示法(景表法)による規制も受けます。特に問題となりやすいのが「優良誤認表示」です。

    優良誤認表示(効果・品質の偽り)とは?

    優良誤認表示とは、商品やサービスの内容が、実際のものや競合他社のものよりも著しく優良であると偽って消費者に誤認させる表示のことです。
    医薬品広告においては、科学的・客観的な根拠がないにもかかわらず、「この成分が痛みの原因を根本から除去する」といった、効果のメカニズムや品質について著しく優れているかのように見せる表現が該当する可能性があります。

    薬機法と景表法の両方で違反となるケース

    例えば、「全く根拠がないにもかかわらず、がんに効くと謳った」という広告は、薬機法の虚偽・誇大広告(第66条)と、景表法の優良誤認表示の両方に違反する可能性があります。この場合、厚生労働省(都道府県)からの指導に加え、消費者庁からも措置命令や課徴金納付命令が出される「二重規制」のリスクに晒されることになります。

    医薬品広告に違反しないための実務チェックリスト

    ここでは、日々の広告作成・審査業務で活用できるチェックリストを紹介します。

    広告作成時のセルフチェック項目10選

    1. □ 承認された効能・効果の範囲を逸脱していないか?
    2. □ 「安全」「安心」「副作用がない」など、安全性を保証する表現はないか?
    3. □ 「必ず効く」「100%」など、効果を保証する表現はないか?
    4. □ 医師や著名人の推薦を用いていないか?
    5. □ 他社製品を誹謗・中傷する内容になっていないか?
    6. □ 「※個人の感想です」の有無にかかわらず、効能効果に関する体験談を使用していないか?
    7. □ 不安や恐怖を過度に煽る表現はないか?
    8. □ 客観的根拠のない「最高」「日本一」などの最大級表現はないか?
    9. □ 承認前の医薬品の広告になっていないか?
    10. □ 広告の3要件(誘引性、特定性、認知性)を満たす広告として、薬機法を遵守しているか?

    広告代理店やインフルエンサーとの契約で定めるべき事項

    • 薬機法等遵守義務: 契約書に、広告制作・掲載にあたり薬機法および関連法規を遵守する義務を明記する。
    • 広告内容の事前確認権: 広告主が、広告代理店やインフルエンサーが作成した広告内容を公開前に確認し、修正を指示できる権利を定める。
    • 禁止表現の共有: ガイドラインを作成し、使用してはならない具体的なNG表現のリストを事前に共有する。
    • 責任の所在: 万が一、法令違反が発生した場合の責任の所在や損害賠償について明確に定めておく。
    • 定期的な監視と報告義務: 特にアフィリエイト広告などでは、委託先に対して定期的な掲載内容の監視と報告を義務付ける。

    【最新情報】本記事は2025年10月29日時点での情報に基づいています。薬機法および関連ガイドラインは随時改正される可能性があります。最新の解釈については、厚生労働省医薬・生活衛生局のサイトまたは管轄の都道府県薬務課の開催する講習会(令和7年度医薬品等広告講習会など)をご確認ください。

    まとめ|医薬品広告は専門家への相談が不可欠

    医薬品広告は、薬機法や医薬品等適正広告基準によって厳しく規制されています。特に重要なポイントは以下の通りです。

    • 大前提: 医薬品広告(薬機法)と医療広告(医療法)は全くの別物。
    • 基本規制: 虚偽・誇大広告(第66条)と承認前広告(第68条)が禁止されている。
    • NG表現: 「安全性の保証」や「効能効果に関する体験談(※注釈付きでもNG)」は特に注意が必要。
    • 厳罰化: 2021年から課徴金制度が導入され、違反時の金銭的リスクが増大した(売上の4.5%)。
    • 媒体: Web、SNS、インフルエンサー、アフィリエイトなど、媒体を問わず広告主としての管理責任が問われる。

    これらのルールは複雑であり、解釈が難しいケースも少なくありません。広告表現に少しでも迷ったら、自己判断で進めるのではなく、必ず法務部門や弁護士、管轄の薬務課などの専門家に相談することが、企業のリスク管理において不可欠です。


    【補足】2025年の法改正について
    なお、2025年5月には医薬品の製造・販売体制の規制強化などを目的とした改正薬機法が成立・公布されています。本記事で解説した広告規制(第66条など)に直接的な変更は現時点ではありませんが、薬機法全体の動向としてご留意ください。

    免責事項

    本記事は、医薬品広告に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別具体的な案件に対する法的助言を行うものではありません。広告表現の適法性に関する最終的な判断は、必ず弁護士等の専門家や管轄の行政機関にご相談ください。本記事に掲載された情報に基づき行動された結果、万一何らかの損害が生じた場合でも、当方は一切の責任を負いかねます。法令やガイドラインは改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認ください。

    参考資料



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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