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  • 特商法規制概要:7つの取引類型と事業者義務・最新改正を完全ガイド

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    ⚠️【重要な免責事項】
    本記事は特定商取引法に関する一般的な情報提供を目的としています。
    貴社の具体的なビジネスモデル・商品・契約形態に対する法的判断や
    アドバイスではありません。法律解釈の判断が必要な場合は、
    必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
    本記事を根拠に取られた行動に対して、著者・発行者は責任を負いません。

    事業者としてビジネスを運営する上で、消費者を保護するための法律は避けて通れません。その中でも特に重要なのが「特定商取引法(特商法)」です。この法律は、ECサイト運営者から訪問販売を行う事業者まで、幅広いビジネスに影響を及ぼします。しかし、規制対象となる取引が7つもあり、頻繁に法改正が行われるため、「自社のビジネスにどこまで関係するのか」「最新の規制内容は何か」を正確に把握するのは容易ではありません。

    この記事では、法務リスクを避けたい事業者様向けに、特定商取引法(特商法)の規制の概要を体系的に解説します。7つの取引類型ごとのポイント、事業者に課される主要な義務、クーリング・オフ制度、そして2021年以降の重要な法改正まで、実務で必要な知識を網羅的にご紹介します。自社のコンプライアンス体制を見直す一助として、ぜひ最後までご一読ください。

    特定商取引法(通称:特商法)は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とした法律です。訪問販売や通信販売など、特に消費者トラブルが生じやすい特定の取引類型を対象に、事業者が守るべきルールを定めています。

    制定背景と消費者保護の枠組み

    特商法は、強引な勧誘や虚偽の説明による契約など、消費者が不利益を被りやすい取引から保護するために1976年に制定されました(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057(最終改正:令和7年))。この法律は、事業者と消費者の間の情報量や交渉力の格差を埋めるための重要な役割を担っています。

    特商法は、特定の「取引類型」に焦点を当てた行為規制である点が特徴です。これは、契約内容そのものの有効性を定める「消費者契約法」とは異なるアプローチです。両者は相互に補完し合い、日本の消費者保護法の重要な柱を形成しています。

    なるほど、特商法は「特定の商売のやり方」を規制する法律で、消費者契約法は「契約内容そのもの」をチェックする法律、という役割分担なんですね。

    特商法の適用範囲と除外事由

    特商法が規制するのは、主に事業者(法人または個人事業主)と一般消費者との間の取引(BtoC取引)です。したがって、事業者間の取引(BtoB取引)には、原則として適用されません(連鎖販売取引など一部例外あり)(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第2条(最終改正:令和7年))。

    また、他の法律で特別な規制がある取引も適用除外となります。例えば、以下のような取引は特商法の対象外です。

    • 金融商品取引業者が行う金融商品の販売
    • 宅地建物取引業者が行う不動産の販売
    • 保険契約

    自社の取引が特商法の対象となるか否かは、取引の形態や実態に基づいて慎重に判断する必要があります。

    特商法が規制する7つの取引類型

    特商法は、以下の7つの取引類型を規制の対象としています。自社のビジネスがこれらのいずれかに該当しないか、必ず確認しましょう。

    取引類型概要
    訪問販売事業者が消費者の自宅等を訪問して契約する取引。キャッチセールスやアポイントメントセールスも含まれる。
    通信販売インターネット、カタログ等で広告し、郵便、電話等の通信手段で申込みを受ける取引。ECサイトが代表例。
    電話勧誘販売事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引。
    連鎖販売取引いわゆる「マルチ商法」。販売組織への加入者を勧誘し、さらにその加入者が次の加入者を勧誘する形態の取引。
    特定継続的役務提供エステ、語学教室、家庭教師など、長期的・継続的なサービスを提供する取引。現在7つの役務が対象。
    業務提供誘引販売取引「仕事を提供するので収入が得られる」と誘い、仕事に必要として商品等を販売する取引。
    訪問購入事業者が消費者の自宅等を訪問し、物品を買い取る取引。いわゆる「押し買い」。

    訪問販売・キャッチセールスの定義と特徴

    訪問販売は、営業所等以外の場所で行われる契約を広く対象とします。具体的には、消費者の自宅への訪問だけでなく、路上で声をかけて営業所に連れて行く「キャッチセールス」や、販売目的を隠して電話などで呼び出す「アポイントメントセールス」も含まれます(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第2条第1項(最終改正:令和7年))。消費者が不意打ち的に勧誘を受けるため、特に厳しい規制が課されています。

    通信販売・電話勧誘販売の規制ポイント

    ECサイトを運営する多くの事業者が該当する通信販売は、新聞・雑誌・インターネットなどで広告し、消費者が郵便や電話、Webサイトのフォームなどを通じて申込みを行う取引です(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第2条第2項(最終改正:令和7年))。消費者自らの意思で情報にアクセスする点が特徴ですが、広告表示義務や返品に関するルールが厳格に定められています。

    一方、電話勧誘販売は、事業者が消費者に電話をかけて勧誘する取引です。事業者側からの能動的なアプローチである点が、通信販売と異なります。

    他の取引類型(連鎖販売取引・特定継続的役務提供など)の概要

    • 連鎖販売取引(マルチ商法):特定利益が得られると誘い、特定負担を伴う商品の販売や役務提供を行う取引です(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第2条第5項(最終改正:令和7年))。
    • 特定継続的役務提供:エステティックサロン、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7つの役務が対象です(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 特定商取引法施行令(最終改正:令和7年))。
    • 業務提供誘引販売取引:「内職商法」や「モニター商法」とも呼ばれ、仕事の提供を口実に商品購入などをさせる手口です。
    • 訪問購入:貴金属や着物などの「押し買い」が社会問題化したことを受け、規制対象となりました。

    これらの取引は、それぞれ特有のリスクを抱えており、特商法によって詳細なルールが定められています。

    事業者に課される主要な規制義務

    特商法の対象となる事業者は、消費者保護のために様々な義務を負います。特に重要なのが「氏名等の明示義務」「不当な勧誘行為の禁止」「広告規制と書面交付義務」の3つです。

    氏名等の明示義務と通信販売の追加要件

    事業者は、勧誘に先立って、消費者に以下の情報を明示しなければなりません(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第3条、第6条など(最終改正:令和7年))。

    • 事業者の氏名または名称
    • 勧誘目的である旨
    • 販売しようとする商品・役務の種類

    特に通信販売では、広告の段階でさらに多くの情報を表示する義務があります。

    (記載例)通信販売の広告における主な表示事項(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第11条(最終改正:令和7年))
    ・販売価格、送料
    ・代金の支払時期、方法
    ・商品の引渡時期
    契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(返品特約)
    ・事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
    ・申込みの有効期限があるときは、その期限
    ・その他(ソフトウェアの動作環境、契約期間など)

    返品に関する条件(返品特約)の表示は極めて重要です。もし返品特約について何も表示していなければ、商品の引渡しを受けた日から8日以内は消費者が商品の返送に要する費用を負担して返品(契約解除)が可能になります(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第15条の3(最終改正:令和7年))。

    不当な勧誘行為の禁止

    特商法は、消費者を誤認させたり、困惑させたりするような不当な勧誘行為を禁止しています。

    • 不実告知:商品の品質や価格、契約解除の条件などについて、事実と異なることを告げる行為。
    • 重要事項の不告知:契約締結の判断に影響を及ぼす重要な事実を、事業者が意図的に告げない行為。
    • 威迫・困惑:消費者を威圧して困らせたり、長時間にわたり勧誘を続けたりする行為。

    これらの禁止行為に違反した場合、行政処分や罰則の対象となります(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第6条など(最終改正:令和7年))。

    広告規制と契約書面交付義務

    事業者は、広告において「著しく事実と相違する表示」や「実際のものより著しく優良、有利であると人を誤認させるような表示」(誇大広告)をしてはなりません(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第12条(最終改正:令和7年))。

    また、契約を締結した際には、契約内容を明らかにした書面を消費者に交付する義務があります。この書面には、クーリング・オフに関する事項など、法律で定められた項目を漏れなく記載しなければなりません。

    2023年6月1日に施行された改正法により、消費者の承諾があれば、これらの契約書面等を電子メールなどで提供する(電磁的方法による交付)ことも可能になっています(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第5条、第18条、第20条、第37条、第55条(最終改正:令和5年))。

    クーリング・オフ制度の詳細と適用対象

    クーリング・オフは、消費者が契約を申し込んだり、契約を締結したりした後でも、冷静に考え直す時間を与え、一定期間内であれば無条件で契約を解除できる制度です。【最重要ポイント】通信販売には、クーリング・オフ制度は原則適用されません。

    ECサイトなどの通信販売では、消費者が自らの意思で情報を収集し、申し込みを行うため、クーリング・オフのような不意打ち的な契約からの保護は不要と考えられています。ただし、前述の通り、事業者が定めた「返品特約」が適用されます。通信販売にはクーリング・オフ制度は原則適用されません。ただし、2022年改正により、詐欺的定期購入商法など特定のケースでは申込取消制度が導入されています。

    対象取引類型と期間(8日/20日ルール)

    クーリング・オフが適用される取引類型と期間は以下の通りです。対象は6つの取引類型で、通信販売は除外されます。

    期間 対象となる取引類型
    8日間 ・訪問販売(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第9条(最終改正:令和7年))
    ・電話勧誘販売(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第24条(最終改正:令和7年))
    ・訪問購入(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第24条(最終改正:令和7年))
    ・特定継続的役務提供(一部、契約額による)(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第37条(最終改正:令和7年))
    ・業務提供誘引販売取引(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第58条(最終改正:令和7年))
    20日間 ・連鎖販売取引(マルチ商法)(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第37条(最終改正:令和7年))
    ・特定継続的役務提供(一部、契約額による)(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第37条(最終改正:令和7年))
    クーリング・オフの期間は、法定の契約書面を受け取った日から起算されます(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第30条の2、第30条の3ほか(最終改正:令和7年))。特定継続的役務提供や連鎖販売取引では、契約額に応じて期間が8日または20日と異なります。

    重要なのは、クーリング・オフ期間の起算点です。期間は、法律で定められた事項が記載された「法定書面」を消費者が受け取った日からカウントされます。もし事業者が不備のある書面しか交付していない場合、クーリング・オフ期間は進行せず、消費者はいつでも契約を解除できる状態になります。ただし、特定継続的役務提供(エステ等)や連鎖販売取引では、書面要件の詳細が類型ごとに異なります(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第37条、第44条(最終改正:令和7年))。

    詐欺的定期購入における申込取消制度

    通信販売にクーリング・オフはありませんが、例外的な保護制度があります。2022年の法改正で、定期購入契約でないと消費者を誤認させるような表示(いわゆる「詐欺的定期購入商法」)によって申込みをした場合、消費者はその申込みを取り消すことができるようになりました(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第12条の6(最終改正:令和7年))。これはクーリング・オフとは異なる、特定の不当表示に対する救済措置です。

    特商法の改正履歴と最新動向(2021年以降)

    特商法は社会情勢や新たな消費者トラブルに対応するため、頻繁に改正されています。近年では特に、オンライン取引に関連する規制強化が目立ちます。

    送り付け商法対策の強化(2021年7月施行)

    以前は、一方的に送り付けられた商品(ネガティブ・オプション)について、消費者は14日間保管する義務がありました。しかし、2021年の改正によりこの保管義務が撤廃され、消費者は売買契約に基づかずに送付された商品を直ちに処分しても責任を負わないようになりました。これにより、事業者は商品の返還を請求できなくなっています(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 (最終改正:令和7年))。

    詐欺的定期購入商法への対策(2022年6月施行)

    ECサイトで「初回無料」と表示しつつ、実際は複数回の購入が義務付けられている定期購入契約だった、というトラブルが急増したことを受け、規制が大幅に強化されました。

    • 直罰規定の導入:定期購入契約であること等を誤認させる表示に対し、行政指導などを経ずに直接、刑事罰(罰金など)を科すことが可能になりました。
    • 申込の取消権の新設:誤認させる表示によって契約してしまった場合、消費者はその申込みを取り消せるようになりました。
    • 契約解除の妨害行為の禁止:事業者が解約手続きを不当に妨げる行為(例:電話がつながらない、解約フォームが複雑すぎる等)が禁止されました(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第12条の6(最終改正:令和7年))。

    「直罰化」って厳しいですね…。つまり、意図的でなくても誤解を招く表示をしてしまうと、いきなり罰金刑になる可能性があるということですか?

    💡 気づき: その通りです。この改正は、事業者が広告表示の分かりやすさに対して、より一層の注意を払うべきだという強いメッセージと言えます。悪意がなくても、「消費者から見てどう見えるか」という視点が不可欠です。

    書面交付の電子化など(2023年6月施行)

    消費者の利便性向上と事業者のDX推進の観点から、以下の電子化が認められました。

    • クーリング・オフ通知の電子化:消費者は電子メールなどでもクーリング・オフの通知ができるようになりました。
    • 契約書面等の電子化:事業者は、消費者の事前の承諾を得れば、契約書面などをPDFファイルなどで交付できるようになりました(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 (最終改正:令和5年))。

    最新改正(令和7年施行分含む)

    令和7年改正(施行予定:令和7年)では、消費者庁および内閣府消費者委員会の議論に基づき、以下の規制強化が導入される予定です。これらの内容は、最新の法令やガイドラインで確認してください。

    • 誇大広告・不実告知・不当な勧誘行為に対する罰則強化:行政処分の迅速化が図られ、悪質な行為への抑止力が強まります(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第6条、第12条、第39条(最終改正:令和7年))。
    • 連鎖販売取引への規制強化:誤認説明や過度な勧誘の禁止ルールが追加され、訪問禁止などの新規制が適用されます。
    • SNS・Web「体験談風広告」の規制対象化:SNSを通じた体験談風の広告が誇大広告規制の対象となり、事業者は表示の正確性を確保する必要があります。
    • クーリング・オフ制度の明確化:対象類型(6類型、通信販売除外)の再整理と、書面要件の詳細化がなされ、特定継続的役務提供の期間起算点などが精緻化されます(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第9条、第24条、第37条、第58条(最終改正:令和7年))。

    事業者は、これらの改正を反映した社内ルールの見直しを推奨します。

    違反時の行政処分と罰則

    特商法に違反した事業者には、厳しいペナルティが科される可能性があります。これらは「行政処分」と「刑事罰」の2種類に大別されます。

    違反時の行政処分(改善指示・業務停止)

    主務大臣(消費者庁長官または経済産業局長)は、違反事業者に対して以下のような行政処分を行うことができます(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第7条、第39条ほか(最終改正:令和7年))。

    • 指示:違反行為の是正や再発防止策を講じるよう命じます。
    • 業務停止命令:違反行為が悪質である場合など、一定期間、事業の全部または一部の停止を命じます。期間は最長で2年間です。
    • 業務禁止命令:業務停止命令に違反した法人の役員などに対し、同種の業務を新たに開始することを禁止します。

    これらの行政処分を受けると、事業者名や違反内容が公表されるため、企業の信用に深刻なダメージを与えることになります。

    刑事罰の概要

    特に悪質な違反行為に対しては、行政処分だけでなく刑事罰が科されます。罰則額は事案により変動するため、最新の条文を確認してください。

    主な違反行為 罰則
    不実告知、重要事項の不告知など 懲役または罰金(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第39条(最終改正:令和7年))
    業務停止命令違反 懲役または罰金(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第40条(最終改正:令和7年))
    通信販売における誤認表示(直罰規定) 罰金(出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057 第12条の6、第70条の2ほか(最終改正:令和7年))

    前述の通り、詐欺的定期購入に関する誤認表示のように、行政処分を経ずに直接刑事罰の対象となる「直罰規定」も存在します。コンプライアンス違反は、事業の存続を揺るがす重大なリスクであることを認識しておく必要があります。

    事業者が押さえるべきコンプライアンス上の注意点

    最後に、特商法を遵守するために事業者が日々意識すべき実務上のポイントをまとめます。

    適用判定のポイント

    自社のビジネスが特商法の規制対象になるかどうかは、パンフレットやウェブサイトに書かれた「建前」ではなく、取引の「実態」で判断されます。例えば、形式上は店舗販売でも、実態がキャッチセールスであれば訪問販売の規制が適用される可能性があります。常に客観的な視点で自社の取引形態を評価することが重要です。

    チェックリストで日常業務を確認

    日々の業務において、以下の点を定期的に確認する習慣をつけましょう。

    • 広告表示:価格、送料、返品特約など、法律で定められた表示事項に漏れはないか?
    • 勧誘:販売目的を隠したり、消費者を誤解させたりするような勧誘をしていないか?
    • 書面交付:契約書面を適切に交付しているか?(電子交付の場合は承諾を得ているか?)
    • 返品・解約:返品や解約の申し出に対し、不当に拒否したり妨害したりしていないか?
    • 法改正:最新の法改正情報をキャッチアップし、社内ルールに反映できているか?

    法改正追跡と専門家相談の重要性

    特商法は頻繁に改正が行われます。消費者庁のウェブサイトなどを定期的に確認し、常に最新の情報を把握することが不可欠です。

    しかし、法律の解釈や自社への適用判断に迷うケースも少なくありません。特に、新しいビジネスモデルを始める際や、行政から指摘を受けた場合には、自社の判断のみで対応するのではなく、弁護士などの専門家に相談することを推奨します。専門家の助言を得ることは、将来の大きなリスクを未然に防ぐための投資です。

    まとめ

    本記事では、事業者向けに特定商取引法(特商法)の規制概要を解説しました。

    • 特商法の目的:消費者トラブルの多い7つの取引類型(訪問販売、通信販売など)において、事業者の不当な行為を規制し、消費者を保護すること。
    • 事業者の主要義務:氏名等の明示、不当勧誘の禁止、誇大広告の禁止、契約書面の交付など、多岐にわたるルールを遵守する必要がある。
    • クーリング・オフ:訪問販売などには適用されるが、通信販売は原則対象外。ただし、通信販売でも返品特約の表示義務や、詐欺的定期購入に対する申込取消制度がある。
    • 最新の改正:送り付け商法や詐欺的定期購入への対策が強化され、違反事業者への罰則も厳格化している。令和7年改正では、SNS広告規制や連鎖販売取引の追加ルールが導入される予定です。

    特商法は複雑ですが、その根底にあるのは「消費者との公正な取引」というシンプルな原則です。本記事を参考に、自社のコンプライアンス体制を再点検し、消費者に信頼される健全な事業運営を目指しましょう。


    免責事項

    本記事は、特定商取引法に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。法律の解釈や適用は、具体的な事実関係や最新の法改正、個別の契約条項によって異なる場合があります。法的な問題については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

    参考資料

    • 特定商取引に関する法律(最終改正:令和7年)。https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057。
    • 消費者庁. (n.d.). 特定商取引法ガイド。https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/。
    • 内閣府消費者委員会. (2025). 第472回 消費者委員会本会議 議事次第。https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2025/472/doc/20251020_shiryou1-3.pdf。



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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