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  • 労働者派遣と請負の違い徹底解説!偽装請負リスクと回避チェックリスト

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    企業の成長や業務効率化に欠かせない外部人材の活用。その代表的な契約形態が「労働者派遣」と「請負」です。しかし、この二つの違いを正確に理解せずに契約を結ぶと、「偽装請負」という違法状態に陥り、厳しい罰則や行政指導を受けるリスクがあります。特に、現場での業務指示の出し方を誤解しているケースは後を絶ちません。

    この記事では、人事労務担当者や経営者の方々が安心して外部人材を活用できるよう、労働者派遣と請負の法的な違いを徹底解説します。厚生労働省のガイドラインなど一次情報に基づき、両者の最大の違いである「指揮命令権」の所在から、偽装請負の具体的な判断基準、さらには実務で役立つ契約時のチェックリストまでを網羅します。この記事を読めば、法的なリスクを回避し、事業目的に合った適切な契約形態を選択するための知識が身につきます。

    労働者派遣と請負の違いとは? 基本概念と法的定義

    労働者派遣と請負は、どちらも外部の労働力を活用する形態ですが、その法的根拠と契約の目的が根本的に異なります。この違いを理解することが、適切な契約選択の第一歩です。

    労働者派遣の定義と特徴(労働者派遣法ベース)

    労働者派遣とは、派遣元事業主が雇用する労働者(派遣労働者)を、派遣先の指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事させることを指します(労働者派遣法 第2条1号(最終改正:令和4年11月))。

    ポイントは、雇用契約を結ぶ「派遣元」と、業務の指示を出す「派遣先」が異なるという三者間の関係です。派遣労働者は、派遣先企業のオフィスなどで、派遣先の社員から直接、日々の業務に関する指示を受けます。

    この事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要であり、労働者派遣法によって派遣期間の制限や派遣労働者の保護に関する様々なルールが定められています。

    請負契約の定義と特徴(民法ベース)

    一方、請負とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成させることを約束し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です(民法 第632条(最終改正:令和2年4月))。

    請負契約の目的は「労働力の提供」ではなく、「仕事の完成」です。例えば、システム開発、ウェブサイト制作、建物の建築などが典型例です。注文者は、完成した成果物に対して報酬を支払います。

    厚生労働省ガイドラインは、請負契約の適正性を判断する四要件として以下を示しています:(1)事業主が作業完成についてすべての責任を負うこと、(2)作業従事労働者を指揮監督すること、(3)使用者として法律上の義務を負うこと、(4)単に肉体的労働力を提供するものでないこと。これらを満たさない場合、偽装請負の疑いが生じる可能性があります。

    請負契約が成立した場合、親事業者と下請事業者の関係では下請代金支払遅延等防止法(下請法)が適用される場合があります。

    なるほど、派遣は「人」を借りて自社で指示を出す、請負は「仕事の完成」を外部に依頼する、というイメージか。でも、システム開発の進捗確認とか、どこまでがセーフなんだろう?

    この二つの違いをまとめたのが、以下の比較表です。

    項目労働者派遣請負
    法的根拠労働者派遣法民法
    契約の目的労働力の確保仕事の完成(成果物)
    指揮命令権派遣先にある請負会社にある
    労働者との関係派遣元と雇用契約請負会社と雇用契約
    報酬の対象労働時間など(労働力の提供)仕事の完成(成果物)
    適用される主な法律労働者派遣法、労働基準法など民法、下請法など
    表1:労働者派遣と請負の基本比較

    派遣と請負の最大の違い:指揮命令権の所在

    前述の通り、労働者派遣と請負を分ける最も重要な要素は「指揮命令権がどこにあるか」です。契約書でどちらの形式を選んでいても、実態として誰が労働者に業務指示を出しているかによって、法的な評価は決まります。

    派遣の場合:派遣先の直接指揮

    労働者派遣契約では、派遣先企業が派遣労働者に対して、業務の進め方、作業手順、時間配分などを具体的に指示します。これは合法であり、派遣契約の根幹をなす特徴です。

    例えば、以下のような指示は派遣先が行うことができます。

    • 「この資料を、本日15時までに30部コピーしてください」
    • 「A社の件、こちらのテンプレートを使ってメールを作成してください」
    • 「明日の午前中は、こちらのデータ入力作業をお願いします」

    このように、派遣先が業務のプロセスに直接関与し、管理するのが派遣の特徴です。

    請負の場合:請負会社の独立管理

    請負契約では、注文者は請負会社の労働者に対して直接指揮命令を行うことはできません。業務の指示や労務管理は、すべて請負会社が自身の責任において行います。

    注文者ができるのは、あくまで契約内容に基づいた「仕事の完成」に関する仕様の提示や、進捗の確認、完成した成果物の検収などです。

    注意:請負契約において、注文主が請負会社の労働者に直接、作業手順を指示したり、勤務時間を管理したりすると、後述する「偽装請負」と判断される重大なリスクがあります。

    例えば、システム開発を請け負った会社のプログラマーに対し、注文主が「この部分のコードは、こういう書き方に変更してほしい」と直接指示するのは、指揮命令にあたる可能性が非常に高い行為です。このような要望は、請負会社の責任者(プロジェクトマネージャーなど)を通じて伝えることが一般的です。

    偽装請負とは? 禁止理由と判断基準

    偽装請負とは、労働者派遣法 第44条の2(最終改正:令和4年11月)で禁止されており、契約形式だけを「請負」としながら、実態が「労働者派遣」になっている状態を指します。これは労働者派遣法で明確に禁止されており、厳しい罰則の対象となります。

    偽装請負の定義と法的禁止

    偽装請負は、労働者派遣法の規制を免れるために行われることが多く、労働者の雇用責任の所在が曖昧になるなど、労働者保護の観点から大きな問題があります。そのため、労働者派遣法は、労働者派遣事業の許可を受けずに労働者派遣を行った者に対し、罰則を科しています(労働者派遣法 第59条2号)。

    偽装請負がなぜ問題とされるのか、その理由は主に以下の2点です。

    1. 労働者保護の潜脱: 派遣法で定められた雇用安定措置や安全衛生管理などの派遣労働者を守るルールが適用されなくなる。
    2. 責任の所在の不明確化: 労働災害などが発生した際に、注文主と請負会社のどちらが責任を負うのかが曖昧になる。

    請負契約下の労働者には、原則として注文主からの労働基準法は適用されません。ただし、実態が派遣と判断されれば適用される可能性があります。

    厚生労働省が示す判断基準の実例

    では、具体的にどのような状態が偽装請負と判断されるのでしょうか。厚生労働省のガイドライン「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」では、以下の3つの観点から総合的に判断するとされています。偽装請負の詳細な判定例として、発注者の現場介入度(例: 日常的な業務指示の頻度)、労働時間決定の主体、報酬算定基準(人時 vs 成果)、企業ルールの適用有無を総合的に評価します。

    1.業務の遂行方法に関する指示、管理
    注文者が請負会社の労働者に対し、以下のような指示・管理を行っていないか?
    • 日々の業務について、具体的な指示(作業内容、順序、ペース配分など)を出している
    • 始業・終業時刻、休憩時間、休日などを指定・管理している(タイムカード管理など)
    2.労働時間の管理
    注文者が請負会社の労働者の労働時間を管理していないか?
    • 残業や休日出勤の指示や承認を行っている
    • 欠勤や遅刻・早退に対して、注文者が承認を行ったり、欠勤分の賃金控除の計算に関与したりしている
    3.企業における秩序の維持、確保等のための指示、管理
    注文者が服務規律に関する指示・管理を行っていないか?
    • 作業場所への入退室管理や、服装規定などを、自社の労働者と同様に適用している
    • 業務の評価や、配置・異動の決定に関与している

    (出典:厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」、2022年、p.3-4)

    どちらを選ぶべき? 契約形態ごとのメリット・デメリット

    自社の業務に外部人材を活用する際、派遣と請負のどちらを選ぶべきでしょうか。それぞれのメリット・デメリットを理解し、業務の性質に合わせて判断することが重要です。

    専門スキルが必要だけど、自社で進捗を細かく管理したい業務は派遣が向いていそう。逆に、成果物が明確で、プロセスは任せたい場合は請負が合理的ということか。

    労働者派遣請負
    メリット・必要なスキルを持つ人材を迅速に確保できる
    ・自社で直接指揮命令できるため、業務の進捗を管理しやすい
    ・採用や労務管理のコストを削減できる
    ・成果物が明確な業務に適している
    ・業務のプロセス管理を外部に任せられる
    ・自社のリソースをコア業務に集中できる
    デメリット・指揮命令の責任を負う
    ・契約期間に制限がある(原則最長3年)
    ・専門業務以外は、派遣労働者の交代が必要になる場合がある
    ・労働者に直接指示ができないため、仕様変更などに手間がかかる
    ・業務の進捗や品質が請負会社の管理能力に依存する
    ・偽装請負と判断されるリスクがある
    表2:派遣と請負のメリット・デメリット比較

    専門的なスキルを要する業務で、かつ自社の社員と連携しながら進めたい場合は「労働者派遣」が適しています。一方、成果物が明確に定義でき、業務の遂行プロセスを外部に一任したい場合は「請負」が適していると言えるでしょう。

    実務で注意すべきポイントとリスク回避策

    契約形態を選択した後は、その契約が名実ともに適正に運用されるよう、継続的な管理が不可欠です。偽装請負のリスクを回避するための実務上のチェックポイントを解説します。

    契約締結時のチェックリスト

    契約書の内容はもちろん、実際の業務運用が契約内容と一致しているかを確認することが最も重要です。以下の項目をチェックリストとしてご活用ください。

    【請負契約における偽装請負防止チェックリスト】

    □ 契約の目的
     契約書に「仕事の完成」が目的であることが明記されているか?

    □ 指揮命令
     注文者が、請負会社の労働者に直接業務指示を出さない運用体制になっているか?
     (※指示は請負会社の責任者を通じて行うことが推奨されます)

    □ 労務管理
     始業・終業時刻、休憩、休日、残業などの勤怠管理を注文者が行っていないか?

    □ 費用
     報酬は「作業時間×単価」ではなく、「成果物」に対して支払われる契約になっているか?

    □ 独立性
     請負会社が、業務遂行に必要な機械、設備、資材などを自ら用意しているか?(※注文者からの無償提供は要注意)
     請負業務を遂行するための独立したスペースが確保されているか?

    □ 責任
     請負会社が、業務の遂行に関する全責任を負うことが明確になっているか?

    違反時の罰則と社会的信用の失墜リスク

    万が一、偽装請負と判断された場合、注文主(発注者)には厳しいペナルティが科せられます。

    • 労働者派遣法違反: 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法 第59条2号)
    • 行政指導・勧告: 厚生労働大臣から事業改善命令や事業停止命令が出される可能性があります。
    • 職業安定法違反: 無許可の労働者供給事業を利用したとして、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(職業安定法 第64条9号)

    これらの法的な罰則に加え、「コンプライアンス意識の低い企業」というレッテルを貼られ、社会的信用を大きく損なうことも深刻なリスクです。取引先や金融機関からの評価低下、優秀な人材の採用難など、事業活動全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 請負契約で、業務の進捗状況を確認するのは指揮命令にあたりますか?

    A1. いいえ、契約内容通りに業務が進んでいるかを確認すること自体は、注文者の権利であり、直ちに指揮命令とは判断されません。ただし、その確認が「どうして遅れているのか」「もっとペースを上げてほしい」といった、業務の遂行方法への具体的な介入に及ぶと、指揮命令と見なされるリスクが高まります。確認は、請負会社の責任者に対して行うことが一般的です。

    Q2. 契約書さえしっかり作れば、偽装請負にはなりませんか?

    A2. いいえ、なりません。偽装請負の判断で最も重視されるのは、契約書の内容よりも「業務の実態」です。いくら完璧な請負契約書を交わしていても、現場で注文者が労働者に直接指示を出していれば、偽装請負と判断されます。

    Q3. フリーランスに業務を委託する場合も、派遣や請負と同じ注意が必要ですか?

    A3. はい、注意が必要です。個人事業主であるフリーランスとの契約は、一般的に「準委任契約」または「請負契約」となります。この場合も、発注者がフリーランスに対して会社員と同様の指揮命令(時間的・場所的拘束、業務内容への詳細な指示など)を行うと、実質的な雇用関係(労働者性)があると判断され、労働基準法などが適用される可能性があります。2024年11月1日施行の「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」により、発注者には業務内容の明示義務などが課されるため、より一層の注意が求められます。

    まとめ:適切な契約選択のための最終確認

    労働者派遣と請負の違いは、単なる契約形態の選択肢ではなく、企業のコンプライアンスとリスク管理に関わる重要な法的問題です。

    最後に、両者の本質的な違いと選択のポイントをまとめます。

    • 労働者派遣: 目的は「労働力の確保」。自社の指揮命令下で業務を進めたい場合に選択。
    • 請負: 目的は「仕事の完成」。成果物が明確で、業務プロセスを外部に一任したい場合に選択。
    • 最大の判断基準: 指揮命令権の所在。契約書面ではなく、「実態」で判断される。
    • リスク: 契約形態と実態が乖離すると「偽装請負」となり、厳しい罰則と信用の失墜につながる。

    外部人材の活用は、もはや多くの企業にとって不可欠な経営戦略です。しかし、そのメリットを最大限に享受するためには、法的なルールを正しく理解し、遵守することが大前提となります。自社の業務内容と管理体制を改めて見直し、それぞれの契約形態の特性を活かした、適正なパートナーシップを築いていきましょう。


    免責事項

    本記事は、労働者派遣と請負契約に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、個別具体的な案件に対する法的助言を構成するものではありません。実際の契約締結や運用にあたっては、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。また、法令は改正されることがありますので、最新の情報や個別の契約条項を必ずご確認ください。

    参考資料

    • e-Gov法令検索. (2025年11月時点). 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号). (最終改正:令和4年11月) 検索URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=360000088
    • e-Gov法令検索. (2025年11月時点). 民法(明治二十九年法律第八十九号). (最終改正:令和2年4月) 検索URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
    • 厚生労働省. (2022). 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド. https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/tekisei_0002.pdf (p.1-4) / HTML版: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00020.html
    • 茨城労働局. (2024). 労働者派遣と請負の相違点について. https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/002341006.pdf



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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