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  • 取締役会議事録作成していない!どうしたらいい?4ステップでリスク解消ガイド

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    長期間にわたり、取締役会議事録を作成していなかったことに気づき、不安を感じていませんか。「過去の決議が無効になるのでは?」「役員として責任を問われるかもしれない」といった懸念が頭をよぎるかもしれません。

    ご安心ください。議事録がないからといって、直ちに過去の決議が無効になるわけではありません。しかし、法律で定められた義務を怠っている状態であり、将来的なリスクを内包していることは事実です。

    この記事では、取締役会議事録の作成義務を怠ってしまった場合に「どうしたらいいか」という疑問に対し、法的な背景から具体的な対応ステップまでを分かりやすく解説します。法的リスクを正しく理解し、今からできる最善の策を講じることで、問題を適切に収束させることが可能です。まずは冷静に現状を把握し、取るべき行動を整理していきましょう。本記事は取締役会を設置している会社を対象としており、非設置会社については適用外となります。

    取締役会議事録の法的義務とは?(会社法第371条の解説)

    取締役会議事録の作成は、単なる社内手続きではなく、会社法によって定められた明確な法的義務です。まずは、その根拠となる法律のルールを正確に理解することが、問題解決の第一歩となります。

    💬 読者の疑問: そもそも、なぜ議事録は法律で義務付けられているんだろう?ただの記録ではないの?

    取締役会議事録は、会社の重要な意思決定のプロセスと結果を証明するための「公式な証拠」です。これにより、経営の透明性を確保し、株主や債権者といった利害関係者を保護する目的があります(出典:会社法第371条(最終改正:令和6年6月))。

    作成・保存の基本要件

    会社法では、取締役会設置会社に対して、取締役会議事録の作成と保存を厳格に義務付けています。

    • 作成義務:取締役会を開催した際には、必ず議事録を作成しなければなりません(出典:会社法第369条第3項(最終改正:令和6年6月))。
    • 保存義務:作成した議事録は、取締役会の日から10年間、会社の本店に備え置く必要があります(出典:会社法第371条第1項(最終改正:令和6年6月))。

    この10年という期間は、税法上の帳簿書類の保存期間(7年)とは異なるため、混同しないよう注意が必要です。

    記載事項と形式(書面/電磁的記録)

    議事録に何を記載すべきかについても、法律で具体的に定められています。

    (会社法施行規則 第101条第3項に基づく主な記載事項)
    • 取締役会の開催日時及び場所
    • 議事の経過の要領及びその結果
    • 決議事項について特別の利害関係を有する取締役の氏名
    • 会社法で定められた特定の意見又は発言があるときは、その内容の概要
    • 出席した取締役、監査役、執行役の氏名
    • 議長の氏名

    ※本表は画像版(alt: 取締役会議事録記載事項)でご覧ください。印刷時は画像保存を推奨。

    また、議事録の形式は、伝統的な「書面(紙)」だけでなく、「電磁的記録(PDFファイルなど)」で作成・保存することも認められています(出典:会社法第369条第4項(最終改正:令和6年6月))。ただし、電磁的記録で作成する場合は、作成者が誰であるかを示すための電子署名などの措置が必要となる点に注意が必要です(出典:会社法施行規則第225条(最終改正:令和6年))。

    議事録の種類と役割の違い

    会社の議事録には、取締役会議事録の他に「株主総会議事録」もあります。両者は作成義務や役割が異なるため、正しく区別して理解しておくことが重要です。

    項目取締役会議事録株主総会議事録
    根拠法会社法第371条(最終改正:令和6年6月)会社法第318条(作成、最終改正:令和6年6月)・第319条(保存、最終改正:令和6年6月)
    主な役割業務執行の意思決定を記録会社の基本的重要事項(役員選任、定款変更等)を記録
    保存期間10年間(本店)10年間(本店)、5年間(支店に写し)
    閲覧権者株主、債権者(裁判所の許可が必要な場合あり)株主、親会社社員、債権者(原則として許可不要)
    取締役会議事録と株主総会議事録の主な違い

    ※本表は画像版(alt: 取締役会議事録と株主総会議事録の主な違い)でご覧ください。印刷時は画像保存を推奨。

    💡 気づき: 取締役会議事録の方が、株主総会議事録よりも閲覧のハードルが高いんですね。これは、業務執行に関する機微な情報が含まれるからかもしれません。だからこそ、正確な記録が求められるのですね。

    より詳しい株主総会議事録の作成方法については、「株主総会議事録の書き方と作成義務とは?ひな形とともに解説」の記事もご参照ください。

    未作成の場合のリスクと影響

    取締役会議事録を作成していない場合、どのようなリスクや具体的な影響が生じるのでしょうか。「決議が無効になる」と短絡的に考えるのは誤りですが、複数の重大なリスクが存在します。取締役会議事録が作成されていない場合でも、取締役会における決議自体が当然に無効となるわけではありません。ただし、その決議の存在や内容を後日、関係者(株主、債権者、監督官庁など)から問われた際に、客観的な証拠がなく、立証が極めて困難になるという重大なリスクを伴います。特に、役員変更や重要な財産処分、株主総会議案の決定など、登記や対外的な効力に影響する決議においては、議事録の不在が後々の紛争原因となる可能性が高いと言えます。

    決議有効性への影響(無効ではないが立証困難)

    最も懸念されるのが、決議の有効性でしょう。
    結論から言うと、議事録が存在しないことだけを理由に、直ちに取締役会決議が無効になるわけではありません

    しかし、問題は「決議の存在と内容をどう証明するか」という点にあります。議事録は、決議があったことを示す最も強力な証拠です。これが存在しない場合、後になって金融機関、取引先、株主などから決議の有効性を問われた際に、その事実を立証することが極めて困難になります。

    議事録の不在は「決議の無効」を意味しない。しかし、「決議の有効性の立証」を困難にする。

    例えば、代表取締役の選定や多額の借入れといった重要な決議について、後日争いが生じた場合、議事録がなければ会社側は非常に不利な立場に立たされます。

    取締役の責任(善管注意義務違反の可能性)

    取締役は、会社に対して「善良な管理者の注意をもって」職務を遂行する義務を負っています。これを善管注意義務といいます(出典:会社法第330条(最終改正:令和6年6月)、民法第644条(最終改正:令和元年))。

    議事録の作成は会社法で定められた取締役の義務であるため、これを怠ることは善管注意義務違反とみなされる可能性があります。もし議事録の不作成が原因で会社に損害が発生した場合(例:決議の有効性が証明できず取引が破談になった)、株主から任務懈怠責任(会社法第423条(最終改正:令和6年6月))を追及され、損害賠償を請求されるリスクがあります。議事録の未作成が、株主からの提訴、税務調査での不利益、または取引先との紛争で善管注意義務違反として指摘される可能性があり、取締役個人の責任が問われる場面で特に問題となります。

    取締役の責任範囲については、「役員の善管注意義務違反とは?問われるケースとリスクを弁護士が解説」でさらに詳しく解説しています。

    中小企業実務での実例と税務・紛争リスク

    「中小企業だから大丈夫」ということはありません。法的な義務は会社の規模に関わらず適用されます。実務上、特に問題となりやすいのは以下のケースです。

    • 税務調査:役員退職慰労金の支給など、税務上損金として認められるためには、その支給が取締役会で適正に決議されたことの証明が求められます。議事録がなければ、決議の事実が認められず、損金算入を否認されるリスクがあります。
    • 融資・許認可:金融機関からの融資審査や、行政庁からの許認可申請の際に、過去の意思決定プロセスを確認するために議事録の提出を求められることがあります。ここで提出できないと、審査が滞ったり、信頼性を疑われたりする可能性があります。
    • 事業承継・M&A:会社の売却や事業承継の際に行われるデューデリジェンス(買収監査)では、議事録は必ずチェックされる重要書類です。議事録が整備されていない会社は、法務リスクが高いと判断され、取引価格が下がったり、最悪の場合は取引が不成立になったりする恐れがあります。

    中小企業では簡易議事録の慣行が散見されますが、これは法的リスクを伴うものであり、税務調査や紛争時に問題となる可能性が高いため、適正な議事録作成の重要性を認識する必要があります。

    未作成時の実務対応ステップ

    議事録の未作成に気づいた場合、パニックにならず、順を追って冷静に対応することが重要です。以下に、取るべき実務対応のステップを示します。本ステップは一般的な対応を示すものであり、定款や社内規約の決議要件(例: 特別決議の閾値)を優先して実施してください。

    過去の議事録を今から作成してもいいのだろうか?法的に問題はないの…?

    過去の議事録を後から作成することは「遡及作成」と呼ばれ、実務上の対応策の一つですが、いくつかの注意点があります。

    ステップ1:現状の把握と事実確認

    まず、いつから、どの取締役会の議事録が作成されていないのかを正確に把握します。関連する資料(招集通知、配布資料、メールのやり取り、関係者のメモなど)を集め、当時の決議の内容や出席者などを可能な限り思い出して記録します。

    ステップ2:遡及(そきゅう)作成の検討と限界

    次に、確認した事実に基づいて議事録を遡及的に作成することを検討します。

    (遡及作成時の記載例)
    第XX回取締役会議事録

    1.開催日時:令和XX年XX月XX日 午前XX時XX分
    2.開催場所:当社本店会議室
    3.出席取締役及び監査役:[当時の出席者の氏名を列挙]

    上記の決議を明確にするため、本議事録を作成し、出席取締役及び監査役はこれに記名押印する。

    令和YY年YY月YY日(※作成日)
    株式会社〇〇
    出席取締役 〇〇 〇〇 ㊞

    ※本表は画像版(alt: 遡及作成時の記載例)でご覧ください。印刷時は画像保存を推奨。

    【重要】遡及作成の限界
    遡及作成は、あくまで事実に基づき形式を整えるための措置です。これだけで法的な有効性が完全に担保されるわけではありません。実務上、『遡及作成』と呼ばれる、過去に作成しなかった議事録を後から作成する対応が検討されることがありますが、遡及作成された議事録は、その当時の取締役会で実際に行われた決議の真実性を完全に担保するものではありません。あくまで形式を整える措置であり、その有効性を完全に証明するためには、決議出席取締役全員の確認署名や、後日改めて招集された取締役会による追認決議を行うなど、複数の補完的な手続きを組み合わせることが実務上推奨されます。遡及作成が証拠として認められるかどうかは、個別の状況や裁判所の判断に委ねられることになります。虚偽の内容を記載すれば、公正証書原本不実記載等罪(刑法第157条(最終改正:昭和三十年))に問われる可能性すらあります。必ず、当時の事実に忠実に作成してください。

    ステップ3:補完手続(事後承認・追認)の実施

    遡及作成した議事録の証拠力を高めるため、補完的な手続きを行うことが強く推奨されます。最も一般的な方法が「追認決議」です。定款や社内規約の決議要件を優先し、必要に応じて過半数以上の出席・賛成等を確認の上実施してください。

    1. 新たに取締役会を招集する。
    2. 議題として「過去の取締役会決議事項の追認の件」を上程する。
    3. 遡及作成した議事録の内容を報告し、その内容が事実と相違ないこと、および当時の決議が有効であることを、改めて決議によって承認(追認)する。
    4. この追認を行った取締役会の議事録を、今度は間違いなく作成・保存する。

    この手続きにより、「会社として過去の決議を正式に認めている」という意思表示となり、対外的な証明力が高まります。

    ステップ4:専門家相談のタイミングと方法

    以下のいずれかに該当する場合は、自己判断で進めず、速やかに弁護士や司法書士といった法律専門家に相談することをお勧めします。もし、議事録の未作成が長期間にわたる場合や、重要な決議(資金調達、M&A、事業譲渡など)に関するものである場合、速やかに弁護士や司法書士といった法律専門家にご相談ください。特に、過去の決議の有効性に疑義が生じている場合や、第三者(金融機関、取引先、株主)との間で紛争に発展するリスクがある場合は、専門家のアドバイスが不可欠です。専門家は、個別の状況に応じて、遡及作成の方法、追認手続き、あるいは法的責任の回避策について具体的な助言を行うことができます。

    • 未作成の期間が長年にわたる場合
    • 対象となる決議が、資金調達、M&A、事業譲渡など、会社の根幹に関わる重要なものである場合
    • すでに関係者(株主、取引先など)との間で紛争が発生している、またはその兆候がある場合
    • 役員の構成が当時と現在で大きく異なり、事実確認や遡及作成への協力が得られにくい場合

    未作成を防ぐための予防策と今後の運用Tips

    一度問題を整理できたら、二度と同じ事態を繰り返さないための仕組み作りが不可欠です。日々の運用で実践できる予防策を紹介します。

    簡易議事録の作成ガイドライン

    完璧な議事録を目指すあまり作成が滞る、という本末転倒な事態を避けるため、社内で簡易的なテンプレートや作成ガイドラインを整備しましょう。最低限、会社法施行規則で定められた記載事項(日時、場所、出席者、議事要領、決議結果など)を網羅したフォーマットを用意しておくだけで、作成のハードルは大きく下がります。

    デジタルツール活用の注意点

    近年、議事録作成を支援するクラウドサービスも増えています。これらを活用すれば、作成・共有・保管が効率化できます。

    • メリット:テンプレート機能、電子署名連携、自動保存、検索性の向上
    • 注意点:電磁的記録として法的な要件を満たすか(特に電子署名などの措置)、セキュリティは万全か、などを確認してツールを選定する必要があります。

    電子帳簿保存法への対応と合わせて、社内のペーパーレス化を進める良い機会にもなるでしょう。

    定期レビューと更新の重要性

    法務担当者や管理部門は、取締役会が開催された後、議事録が遅滞なく作成・保管されているかを定期的にチェックする体制を構築しましょう。四半期ごとや半期ごとに、議事録の保管状況を確認する日を設けるのも有効な方法です。

    取締役会議事録の作成に関するよくある質問(FAQ)

    Q1:取締役会議事録を作成しないと、罰則(過料)はありますか?A1:会社法976条4号・7号・8号(最終改正:令和6年6月)により、作成・保存違反で100万円以下の過料の可能性があります。ただし、直接罰則より善管注意義務違反(同第423条)による損害賠償リスクが大きいです(出典: e-Gov, 2024)。これは「罰則がないから作らなくてよい」という意味ではありません。前述の通り、善管注意義務違反による損害賠償責任や、登記申請が受理されない、税務調査で否認されるといった実務上の不利益の方が、はるかに大きなリスクとなります。
    Q2:決議事項が何もない「報告のみ」の取締役会でも議事録は必要ですか?A2:はい、必要です。会社法は「取締役会の議事」について議事録を作成するよう定めており、決議事項の有無は問いません。報告事項や議論の経過自体が、取締役が適切に業務執行を監督していた証拠となるため、どのような内容であれ議事録は作成する必要があります。
    Q3:出席取締役全員の署名または記名押印は必須ですか?A3:会社法上、議事録への署名・記名押印義務は、定款に特別な定めがない限り、原則として必須ではありません。ただし、議事録に異議をとどめなかった取締役は、その決議に賛成したものと推定される規定があります(会社法第369条第5項(最終改正:令和6年6月))。実務上は、議事録の内容が真正なものであることを担保するため、出席取締役・監査役全員が記名押印または電子署名を行う運用が一般的であり、強く推奨されます。

    ※本表は画像版(alt: 取締役会議事録の作成に関するよくある質問(FAQ))でご覧ください。印刷時は画像保存を推奨。

    まとめ:取締役会議事録の未作成に気づいたら、早めの行動でリスクを最小化しよう

    取締役会議事録を作成していなかった事実に気づくと、大きな不安を感じるかもしれません。しかし、最も重要なのは、問題を放置せず、発覚後すみやかに行動を起こすことです。

    本記事で解説したポイントを再確認しましょう。

    • 法的義務の理解:議事録の作成と10年間の保存は、会社法で定められた義務です。
    • リスクの認識:決議が即無効になるわけではないものの、「立証困難」「役員の責任追及」「実務上の不利益」といった重大なリスクを伴います。
    • 冷静な対応:まずは事実確認を行い、必要に応じて「遡及作成」と「追認決議」をセットで検討します。
    • 専門家への相談:状況が複雑な場合や、重要な決議に関する場合は、迷わず弁護士などの専門家に相談しましょう。
    • 再発防止:今後の運用ルールを確立し、同じ過ちを繰り返さない仕組みを構築することが不可欠です。

    過去の不備を正しく是正し、未来に向けて健全な会社運営体制を再構築する良い機会と捉え、着実に対応を進めていきましょう。

    免責事項

    本記事は、取締役会議事録の作成義務に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する法的な助言や見解を示すものではありません。議事録の未作成に関する具体的な対応については、必ず弁護士や司法書士などの法律専門家にご相談ください。また、法令は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認いただくとともに、貴社の定款や個別の契約条項が最優先される点にご留意ください。法令は定款・契約条項に準拠し、改正時は現条項最優先で更新確認を。

    参考資料

     

    • e-Gov法令検索. (n.d.). 会社法(平成十七年法律第八十六号). Retrieved from https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000089 (最終改正: 令和6年6月)
    • e-Gov法令検索. (n.d.). 会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号). Retrieved from https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010012 (最終改正: 令和6年)
    • 法務省. (2021). 会社法施行規則第225条第2項に定める「法務省令で定める措置」について. Retrieved from https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00145.html (現時点有効)



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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