電子提供制度に対応!株主総会運営の完全ガイド|スケジュールから議事録まで

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⚠️ 本記事の適用時点について

本記事は、2025年10月31日現在の現行会社法に基づいています。

法務省が現在検討中の改正(2025年4月から法制審議会で審議中、改正時期は令和8年度内を目途)が成立した場合、本記事の内容の一部が変わる可能性があります。

株主総会の運営は、企業の法務・総務担当者にとって年間で最も重要な業務の一つです。特に2023年3月以降、株主総会資料の電子提供制度が原則義務化され、招集通知の発送タイミングや書面交付請求への対応など、実務上の変更点に戸惑いや不安を感じている方も多いのではないでしょうか。法改正のポイントを見落とせば、手続の瑕疵を問われかねません。

本記事では、電子提供制度に対応した最新の株主総会運営マニュアルとして、準備段階のスケジュール策定から招集通知の実務、想定問答集の作成、当日の議事進行、事後の議事録作成まで、各ステップを網羅的に解説します。会社法の条文を根拠に、担当者が押さえるべき法的要件と実務上の注意点を整理しました。本記事を通じて、法改正に対応した万全な株主総会運営の実現をサポートします。

Contents

はじめに:電子提供制度の義務化で株主総会運営はこう変わる

株主総会の運営実務は、会社法の改正に伴い大きく変化しました。特に「株主総会資料の電子提供制度」への対応は、担当者にとって最重要課題です。

2023年3月から原則義務化された「株主総会資料の電子提供制度」とは

株主総会資料の電子提供制度とは、株主総会の参考書類や事業報告、計算書類といった資料を、自社のウェブサイト等の適切な場所に掲載し、株主にはそのウェブサイトのアドレスなどを通知(アクセス通知)することで、資料提供を行ったとみなす制度です(会社法第325条の2(令和元年法律第70号による改正))。

💬 読者の疑問: 結局、どの会社がこの制度に対応しないといけないの?

この制度の対象となるのは、振替株式発行会社、つまりすべての上場会社です。これらの会社では電子提供制度の採用が義務となります。非上場会社であっても、定款にその旨を定めることで任意に採用することが可能です。

担当者が押さえるべき3つの主要変更点

電子提供制度の導入により、従来の株主総会運営から主に以下の3点が変更されました。

  1. 資料送付実務の変更:
    原則として、従来のような分厚い冊子の郵送は不要になり、資料が掲載されたウェブサイトのURL等を記載した招集通知(アクセス通知)を送付する形に変わりました。
  2. スケジュールの前倒し:
    ウェブサイトへの資料掲載(電子提供措置の開始)は、招集通知の発送日(総会2週間前)よりも早く、総会の3週間前までに行う必要があります。これにより、準備スケジュール全体が前倒しになります。
  3. 書面交付請求への対応:
    株主は、個別に書面での資料交付を請求する権利(書面交付請求権)を持ちます。会社は、請求を行った株主に対しては、別途、資料を印刷して送付する義務を負います(会社法第325条の5(令和元年法律第70号による改正))。

【全体像】株主総会運営の標準スケジュールとタスク一覧

電子提供制度を前提とした株主総会運営は、計画的なスケジュール管理が成功の鍵を握ります。総会日から逆算したタスクリストを把握しましょう。

総会3ヶ月前から事後対応まで|時系列タスクリスト

株主総会の準備は、総会日の3ヶ月以上前から始まります。以下に標準的なタスクの流れを示します。

時期主要タスク担当部署(例)
総会3ヶ月前~・総会日程・場所の仮決定
・事業報告、計算書類等の作成開始
・議案の検討、収集
総務・法務
経理
経営企画・各事業部
総会2ヶ月前~・取締役会による計算書類等の承認
・会計監査人による監査
・招集通知、株主総会参考書類のドラフト作成
取締役会
経理・監査役
総務・法務
総会1ヶ月前~・取締役会による招集事項の決定
電子提供措置の開始(総会日の3週間前まで)
招集通知の発送(総会日の2週間前まで)
取締役会
IR・総務
総務・信託銀行
総会当日・受付、議事進行
・質疑応答、動議対応
・議決
総務・法務・役員
総会後・株主総会議事録の作成
・役員変更等の登記申請(2週間以内)
・決議通知の発送・ウェブ掲載
法務・総務

【図解】電子提供制度導入後のスケジュール変更点

電子提供制度で最も注意すべきは、「電子提供措置開始日」「招集通知発送日」の期日の違いです。

(電子提供措置をとる旨の定款の定め)
第三百二十五条の二 株式会社は、[…]その定款に、株主総会参考書類等に記載すべき事項を電子提供措置により提供する旨を定めることができる。

(出典:会社法第325条の2(令和元年法律第70号による改正))

この措置を開始する日は、総会日の3週間前の日または招集通知を発送した日のいずれか早い日と定められています(会社法第325条の3第1項第2号(令和元年法律第70号による改正))。一方で、招集通知の発送期限は従来通り総会日の2週間前です(会社法第299条第1項(令和元年法律第70号による改正))。

つまり、ウェブへの資料掲載を、招集通知の発送より1週間早く完了させなければならないのです。このタイムラグを念頭に置いたスケジュール管理が不可欠です。

【図解】電子提供措置開始日と招集通知発送日のタイムライン

┌─────────────────────────────────────────────┐
│        総会開催日から逆算したスケジュール        │
└─────────────────────────────────────────────┘

3週間前        2週間前        当日
│              │              │
▼              ▼              ▼
[電子提供措置]  [招集通知]     [株主総会]
ウェブ掲載     発送期限        開催
開始日

【ステップ1】招集準備:電子提供措置と招集通知の実務

株主総会運営の成否を分けるのが、法令に則った正確な招集手続きです。電子提供制度下の実務ポイントを解説します。

電子提供措置の対象会社と具体的な措置内容(会社法第325条の2(令和元年法律第70号による改正))

前述の通り、電子提供制度が義務付けられるのはすべての上場会社です。非上場会社は定款で定めることで任意に採用できます。

電子提供措置でウェブサイトに掲載すべき情報(電子提供措置事項)には、主に以下のものが含まれます。

  • 株主総会参考書類
  • 議決権行使書面
  • 事業報告
  • 計算書類および連結計算書類

これらの情報を、電子提供措置開始日から株主総会の日後3ヶ月を経過する日まで、継続してウェブサイトに掲載し続ける必要があります(会社法第325条の3第1項第3号(令和元年法律第70号による改正))。

最重要ポイント:「電子提供措置開始日」と「招集通知発送日」の関係

繰り返しになりますが、この2つの期日の関係を正確に理解することが極めて重要です。

  • 電子提供措置開始日: 総会日の3週間前までにウェブ掲載を開始
  • 招集通知発送日: 総会日の2週間前までに株主へ通知を発送

💡 気づき: つまり、すべての資料をFIXさせるデッドラインが、実質的に1週間早まったということですね。監査や印刷のスケジュールも見直す必要があります。

このスケジュールを遵守できなかった場合、招集手続の法令違反として、株主総会の決議が取り消されるリスクがあります(会社法第831条第1項第1号(令和元年法律第70号による改正))。

電子提供制度下での招集通知の記載事項と発送手続き(会社法第299条(令和元年法律第70号による改正))

電子提供制度を利用する場合、株主に送付する招集通知(アクセス通知)には、少なくとも以下の事項を記載する必要があります。

(記載例:招集通知の主要記載事項)
・株主総会の日時および場所
・株主総会の目的である事項(議案)
電子提供措置をとっているウェブサイトのアドレス
・書面を交付しないことについて異議を述べることができる場合はその旨
・その他法務省令で定める事項

この通知を、総会日の2週間前までに株主へ発送します。

書面交付請求を行った株主への対応実務(会社法第325条の5(令和元年法律第70号による改正))

株主には、電子データでの閲覧が困難な場合などを想定し、紙媒体での資料交付を求める「書面交付請求権」が保障されています。

会社は、基準日までにこの請求を行った株主に対し、招集通知の発送とあわせて、電子提供措置事項を記載した書面を送付しなければなりません。

ただし、送付される書面は、必ずしも旧制度の冊子と全く同一ではありません。会社法施行規則で定められた軽微な事項(例:役員の兼職先の状況に関する事項の一部、些細な誤記の訂正など)は、書面への記載を省略することが認められています(会社法施行規則第95条の2第2項)。

【ステップ2】議案・想定問答の準備:取締役の説明義務と建設的対話の実現

⚠️ 重要な注記
本セクションは、株主総会運営に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の質問への対応法、法的判断の詳細は、必ず顧問弁護士にご相談ください。本記事による具体的な対応助言は、非弁行為に該当する可能性があります。

招集手続きと並行して、総会の議案を確定させ、株主からの質問に備える「想定問答集」の準備を進めます。これは単なる事務作業ではなく、株主との対話の質を高める重要なプロセスです。

取締役の説明義務(会社法第314条)の範囲を正しく理解する

会社法は、取締役、会計参与、監査役、執行役に対し、株主総会において株主から特定の事項について説明を求められた場合に、必要な説明をする義務を課しています。

(取締役等の説明義務)
第三百十四条 取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。

(出典:会社法第314条)

ただし、この義務は無制限ではありません。質問が株主総会の目的である事項に関しない場合や、説明により株主の共同の利益を著しく害する場合など、説明を拒める正当な理由がある場合はこの限りではありません。

形式的ではない「想定問答集」の作成フロー

質の高い想定問答集は、株主の関心事を先読みし、経営陣が自社の言葉で真摯に回答するための土台となります。

  1. 情報収集: 前年度の総会での質問、競合他社の動向、議決権行使助言会社のレポート、メディア報道などを広く収集します。
  2. カテゴリ分類: 収集した情報を「業績・財務」「事業戦略」「コーポレート・ガバナンス」「サステナビリティ」「役員人事・報酬」などのカテゴリに分類します。
  3. 問答作成: 各カテゴリについて、想定される質問と、簡潔かつ誠実な回答案を作成します。回答は、担当役員や関連部署と連携して事実確認を徹底します。
  4. レビューとリハーサル: 完成した問答集を基に、経営陣参加のリハーサルを実施し、回答のトーンや分かりやすさを確認・修正します。

近年の重要テーマ(サステナビリティ、役員報酬、アクティビスト対応)

近年、株主の関心は財務情報だけでなく、非財務情報にも広がっています。想定問答集を作成する際は、以下のテーマを特に意識することが重要です。

  • サステナビリティ・ESG: 気候変動への対応(TCFD提言)、人権デューデリジェンス、サプライチェーン管理など。
  • コーポレート・ガバナンス: 取締役会の多様性(特に女性役員比率)、役員報酬の決定プロセス、CGコードへのコンプライアンス状況。
  • アクティビスト対応: 経営戦略や株主還元策に対する厳しい質問や提案に備え、会社のスタンスを明確にするためのロジックを準備しておく必要があります。

【ステップ3】株主総会当日の議事運営

入念な準備を経て、いよいよ株主総会当日を迎えます。スムーズな議事進行のため、決議の成立要件やシナリオのポイントを再確認しましょう。

普通決議と特別決議の成立要件(会社法第309条(平成26年法律第90号による改正))

株主総会の決議には、議案の重要度に応じていくつかの種類がありますが、代表的なものが「普通決議」と「特別決議」です。

普通決議(会社法第309条第1項)特別決議(会社法第309条第2項)
主な議案・剰余金の配当
・役員の選任・解任
・役員報酬の決定
・定款の変更
・事業譲渡
・合併、会社分割
定足数議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席
賛成数出席した株主の議決権の過半数出席した株主の議決権の3分の2以上
※ご注意:上記の要件は、会社の定款によって変更(例:定足数の緩和、賛成数の加重など)されている可能性があります。必ず自社の定款をご確認ください。

議事進行シナリオ作成のポイントと動議・質問への対応

当日の混乱を避けるため、詳細な議事進行シナリオを作成しておくことが不可欠です。

  • 時間配分: 開会から閉会まで、各議案の審議や質疑応答の時間を具体的に定めておきます。
  • 役割分担: 議長(通常は代表取締役)、説明者、事務局の役割を明確にします。
  • 想定外への備え: 株主からの動議(議事進行に関する提案など)や想定問答集にない質問が出た場合の対応フロー(議長への報告、法務担当のサポート体制など)を事前に決めておきましょう。

【ステップ4】事後対応:株主総会議事録の作成と備置き・登記

株主総会が終了しても、業務は終わりではありません。法的に定められた事後対応を確実に行う必要があります。

議事録の作成義務と法定記載事項(会社法第318条(平成26年法律第90号による改正), 会社法施行規則第72条)

会社は、株主総会の議事について、法務省令で定める事項を記載した議事録を作成しなければなりません(会社法第318条第1項)。

会社法施行規則第72条で定められている主な記載事項は以下の通りです。チェックリストとしてご活用ください。

  • 株主総会が開催された日時および場所
  • 議事の経過の要領およびその結果
  • 述べられた意見または発言があるときは、その発言の要旨
  • 出席した取締役、執行役、会計参与、監査役の氏名
  • 議長の氏名
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
  • 出席株主数およびその議決権数
  • 議決権を行使した株主数およびその議決権数

議事録の備置きと閲覧、役員変更登記の手続き

作成した株主総会議事録は、総会の日から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第318条第2項)。支店にも5年間、その写しを備え置かなければなりません。株主や会社の債権者は、これらの議事録の閲覧や謄写を請求することができます。

また、株主総会で役員の選任や退任に関する決議があった場合は、決議の日から2週間以内に管轄の法務局へ変更登記を申請する必要があります。

【応用編】バーチャル株主総会の法的整理と選択肢

近年、株主の参加機会を拡大するため「バーチャル株主総会」を導入する企業が増えています。しかし、その種類と法的要件には大きな違いがあり、正確な理解が必要です。

ハイブリッド型バーチャル株主総会の運営ポイント

ハイブリッド型バーチャル株主総会は、物理的な会場を設けた上で、オンラインでの参加・出席も認める形態です。これは現行の会社法下で広く認められており、多くの企業で採用されています。

運営上のポイントは、リアル会場の株主とオンライン参加の株主との間で、情報提供や質疑応答の機会に不公平が生じないよう配慮することです。

バーチャルオンリー株主総会の開催要件(産業競争力強化法上の特例)

一方、物理的な会場を設けず、オンラインのみで開催するのがバーチャルオンリー株主総会です。

バーチャルオンリー株主総会は、どんな会社でも自由に開催できるわけではありません。

この形態は、産業競争力強化法に基づく時限的な特例措置であり、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた上場会社にのみ認められています。開催には、通信障害時の対応策やなりすまし防止措置など、高度な要件を満たす必要があります。

ハイブリッド型バーチャルオンリー型
法的根拠会社法産業競争力強化法(特例・時限措置)
物理会場必要不要
対象会社全ての会社要件を満たす上場会社のみ
導入ハードル比較的低い高い(経産省・法務省の確認要)

近く予定される改正への展望(2025年10月31日現在)

法務省は2025年4月23日、法制審議会「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」を設置し、以下の重要なテーマについて改正を検討しています。

  • バーチャルオンリー株主総会の全面解禁に向けた環境整備
    通信障害時の対応策、議事録音・録画義務、システム障害時の決議取消し要件(セーフハーバー)の導入が検討されています。
  • 実質株主確認制度の創設:議決権行使の公正性向上に向けた制度化。
  • 株主提案権の濫用防止:提案件数の上限設定等の要件見直し。

改正時期は令和8年度内を目途とされています[1]。

本記事は、2025年10月29日時点の現行法に基づいています。改正法案の国会提出時には内容の一部が変わる可能性があります。

まとめ:法改正に対応した万全な株主総会運営のために

本記事では、電子提供制度の導入を軸に、最新の株主総会運営実務を網羅的に解説しました。

  • 電子提供制度:上場会社は義務化。ウェブ掲載(総会3週間前)が招集通知発送(同2週間前)より先行するため、スケジュール管理が重要。
  • 招集手続き:電子提供措置のURL等を記載したアクセス通知を送付。書面交付請求株主への個別対応も必要。
  • 議案・想定問答:取締役の説明義務を理解し、サステナビリティなど近年の重要テーマも踏まえた準備が不可欠。
  • 当日・事後対応:決議要件の確認(特に定款)、法定事項を網羅した議事録の作成・備置きを徹底。
  • バーチャル総会:ハイブリッド型とバーチャルオンリー型は法的根拠と要件が全く異なるため、導入検討時は注意が必要。

株主総会は、株主との重要な対話の場です。法改正の趣旨と実務上の変更点を正しく理解し、入念な準備を行うことが、円滑な運営と株主からの信頼獲得につながります。


免責事項

本記事は、株主総会運営に関する一般的な情報提供を目的としており、以下の性質を持つものではありません:

  • 特定の事実関係に基づく法的な助言
  • 弁護士業務(法律事件の処理を行為とするもの)
  • 税務相談
  • 会計アドバイス

個別の案件については、必ず弁護士、税理士等の適切な専門家にご相談の上、対応してください。本記事の利用に伴い生じた損害について、当社は一切責任を負いません。

また、本記事は2025年10月29日時点の法令に基づいており、改正により内容が変わる可能性があります。最新情報は法務省公式サイトおよび顧問弁護士にご確認ください。

参考資料

  • 電子政府の総合窓口e-Gov, 会社法(平成十七年法律第八十六号)
  • 電子政府の総合窓口e-Gov, 会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)
  • 法務省 公式サイト「会社法改正に関する動向」(最新情報は法務省公式サイトでご確認ください)



植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
 検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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