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  • 【図解】景品表示法と薬機法の違い|広告で違反しないためのNG表現チェックリスト

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    企業の広告やマーケティングに関わる担当者にとって、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法、以下「景表法」)と薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、以下「薬機法」)は、避けては通れない重要な法律です。SNSやインフルエンサーマーケティングが普及し、消費者の目も厳しくなる中、意図せず法令違反を犯してしまうリスクはかつてなく高まっています。特に「No.1表示」や体験談の利用、2023年に始まった「ステルスマーケティング(ステマ)規制」など、知らずに抵触しやすいポイントが数多く存在します。

    本記事では、広告担当者が最低限知っておくべき景表法と薬機法の基本を徹底解説します。両法の違いから、具体的なNG表現、違反した場合の重いペナルティまで、実務ですぐに役立つ知識を網羅的に提供します。自社の広告がコンプライアンス上問題ないか、この記事を通じて確認していきましょう。

    近年、デジタル広告市場の拡大に伴い、消費者庁や厚生労働省による広告規制の監視は一層強化されています。特に以下の3つの背景から、広告担当者にとって両法の知識は「知らなかった」では済まされない必須スキルとなっています。

    1. 消費者保護意識の高まり: SNSの普及により、消費者は不適切な広告を容易に発見し、共有できるようになりました。一度「炎上」すれば、企業のブランドイメージは大きく損なわれます。
    2. 規制の強化: 2023年10月には景表法でステルスマーケティングが明確に規制対象となりました。また、薬機法では2021年8月から課徴金制度が導入されており、違反に対するペナルティは年々重くなっています。
    3. 広告手法の多様化: アフィリエイトやインフルエンサーマーケティングなど、第三者が関与する広告が増えたことで、広告主の管理責任がより一層問われるようになっています。

    これらの変化に対応し、企業価値を守るためにも、広告に関わるすべての担当者が正確な法的知識を身につけることが急務と言えるでしょう。

    Contents

    【図解】景品表示法と薬機法の違いと適用範囲

    景表法と薬機法は、どちらも広告表現を規制する法律ですが、その目的や対象範囲が異なります。まずは両者の関係性を正確に理解しましょう。

    景表法と薬機法、どっちを気にすればいいのか混乱します…。特に健康食品や化粧品は両方関係ありそうで難しいですね。

    対象は?:景表法は全商品、薬機法は医薬品など

    両法の最も大きな違いは、規制対象となる商品・サービスの範囲です。

    • 景品表示法: 原則として、すべての商品・サービスが対象です。食品、化粧品、家電、不動産、オンラインサービスなど、事業者が提供するあらゆるものが含まれます。
    • 薬機法: 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品といった、人の健康や身体に影響を与える特定のカテゴリーの製品が対象です。

    つまり、化粧品や健康食品(医薬品に該当しないもの)の広告は、景表法と薬機法の両方の規制を受けることになります。これが、担当者が混乱しやすい最大のポイントです。

    規制内容は?:景表法は「表示」、薬機法は「広告」

    規制される行為の範囲にも違いがあります。

    • 景品表示法: 商品パッケージ、ウェブサイト、店頭POP、セールストークなど、広告に限らず広範な「表示」を規制します。
    • 薬機法: 新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどを用いた「広告」行為を主な規制対象とします。

    管轄は?:消費者庁と厚生労働省

    法律を所管する省庁も異なります。この違いが、規制の考え方にも影響を与えています。

    • 景品表示法: 消費者庁が管轄します。消費者が商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ることを目的としています。
    • 薬機法: 厚生労働省(および都道府県)が管轄します。医薬品等の品質・有効性・安全性を確保し、保健衛生の向上を図ることを目的としています。

    これらの違いをまとめたのが以下の表です。

    項目景品表示法薬機法
    目的消費者の自主的・合理的な選択の保護保健衛生の向上
    対象商品・サービス原則すべて医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器等
    規制対象行為表示(広告、パッケージ、店頭POP等)広告(Web、雑誌、テレビ等)
    主な禁止行為・優良誤認表示
    ・有利誤認表示
    ・ステルスマーケティング
    ・誇大広告
    ・未承認医薬品等の広告
    管轄省庁消費者庁厚生労働省、都道府県

    景品表示法(景表法)が禁止する3つの「不当表示」

    景表法は、消費者を惑わす「不当表示」を禁止しています。特に重要なのは「優良誤認表示」「有利誤認表示」、そして近年加わった「ステルスマーケティング」の3つです。

    ① 優良誤認表示とは? – 品質・内容を偽る表示

    優良誤認表示とは、商品やサービスの品質、規格、その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認させる表示のことです(不当景品類及び不当表示防止法 第5条第1号)。

    • 具体例:
      • 客観的な調査結果がないのに「顧客満足度No.1」と表示する。
      • 外国産牛肉を「国産和牛」と偽って販売する。
      • カシミヤが10%しか含まれていないのに「カシミヤ100%」と表示する。

    事業者は、表示内容を裏付ける「合理的根拠」を、消費者庁から求められた際に提出できなければなりません。根拠がない、または不十分な場合は優良誤認表示とみなされる可能性があります。

    ② 有利誤認表示とは? – 価格・取引条件を偽る表示

    有利誤認表示とは、商品やサービスの価格その他の取引条件について、実際よりも著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示を指します(不当景品類及び不当表示防止法 第5条第2号)。

    • 具体例:
      • 販売実績のない「通常価格」を併記して、割引率を高く見せかける(不当な二重価格表示)。
      • 「今だけ半額!」と表示しているが、実際には長期間その価格で販売している。
      • 「抽選で100名様にプレゼント」と告知し、実際には応募者全員にプレゼントしている。

    ③ ステルスマーケティングとは? – 広告であることを隠す表示【2023年10月施行】

    2023年10月1日から、新たにステルスマーケティング(ステマ)が景表法で規制対象となりました。これは、事業者の表示(広告)であるにもかかわらず、そのことを消費者に隠す行為です(不当景品類及び不当表示防止法 第5条第3号に基づく告示)。

    重要な点として、ステマ告示は2023年10月1日に施行されましたが、施行前に行われた表示についても措置命令等の対象となりうることが消費者庁から示されています。

    • 規制のポイント:
      • インフルエンサーやアフィリエイターに依頼した投稿で、「#PR」「#広告」といった広告である旨の明記がない。
      • ECサイトのレビューで、金銭を提供して高評価を投稿してもらい、その事実を隠す。

    重要なのは、規制の対象、つまり措置命令などを受けるのはインフルエンサーではなく広告主(事業者)であるという点です。事業者は、第三者による表示が広告であることを消費者に正しく伝えさせる管理責任を負います。

    薬機法が禁止する2つの「広告規制」

    薬機法は、医薬品等の有効性・安全性に関わるため、景表法よりもさらに厳しい広告規制を設けています。特に重要なのが「誇大広告」と「未承認医薬品等の広告」の禁止です。

    ① 誇大広告の禁止(薬機法第66条)- 承認範囲を超える効果の標榜

    薬機法第66条は、医薬品等の名称、製造方法、効能、効果、性能に関して、虚偽または誇大な記事を広告することを禁止しています。たとえ嘘でなくても、国が承認した効なう・効果の範囲を超えて、消費者に過度な期待を抱かせる表現はすべて誇大広告に該当する可能性があります。

    • 具体例:
      • 承認された効果が「肌にうるおいを与える」である化粧品で、「シワが消える」「アンチエイジング」と謳う。
      • 医師の診断や治療が必要な症状について、医薬品で「必ず治る」といった保証表現を用いる。

    ② 未承認医薬品等の広告禁止(薬機法第68条)- 健康食品・化粧品の注意点

    薬機法第68条は、国から承認・認証を受けていない医薬品・医療機器等について、その名称、製造方法、効能、効果、性能に関する広告を全面的に禁止しています。

    この条文で特に注意が必要なのが、健康食品や雑貨です。これらは医薬品ではありませんが、広告で医薬品的な効能効果を謳ってしまうと、「未承認の医薬品」の広告とみなされ、薬機法違反となります。

    • 具体例(健康食品の場合):
      以下のような表現は、未承認医薬品の広告とみなされる可能性が高いため、原則として使用を避けるべきです。ただし、最終的な違反判断は個別の案件(文脈・全体表示)による総合判断のため、実際の使用前には必ず専門家(弁護士等)への相談をお勧めします。

      • 「飲むだけで血糖値が下がる」
      • 「ガン予防に効果的」
      • 「アトピー性皮膚炎が改善」

    化粧品についても同様で、行政が認めた56種類の効能効果の範囲を超えた表現は、薬機法違反となるリスクがあります(出典:厚生労働省「化粧品等の適正広告ガイドライン」令和2年7月版)。

    【事例で学ぶ】広告表現のOK/NG境界線チェックリスト

    理論を学んでも、実務でどの表現がOKでどれがNGかの判断は難しいものです。ここでは、担当者が特に迷いやすい4つのケースについて、具体的な判断基準を解説します。

    ケース1:「No.1表示」の落とし穴と合理的根拠の作り方

    「売上No.1」「満足度No.1」といった表示は、消費者に強いインパクトを与えますが、優良誤認表示になりやすい典型例です。No.1表示を行うには、表示内容を裏付ける客観的で正確な調査に基づく「合理的根拠」が必須です(出典: 消費者庁「『No.1表示』に関する景品表示法上の考え方」)。

    調査データさえあれば、No.1と表示して良いわけではないんですね。表示の仕方にもルールがあるんだ。

    【合理的根拠として認められるための要件】

    • 客観性: 信頼できる第三者機関による調査であること。
    • 正確性: 表示内容と調査結果が正確に合致していること。(例:「東京エリアNo.1」と表示するなら、調査対象も東京エリアに限定されている必要がある)
    • 適時性: 調査時点が古すぎないこと。
    • 明瞭性: 調査機関、調査年、調査範囲などを、消費者が認識しやすいように明記すること。
    (記載例:OK)
    顧客満足度No.1
    ※調査機関:株式会社〇〇リサーチ/調査期間:2024年1月1日~3月31日/調査対象:全国20代~40代の自社サービス利用者500名
    (記載例:NGリスクあり)
    顧客満足度No.1
    (根拠の記載がない、または非常に小さく見えにくい文字で記載されている)

    ケース2:「個人の感想です」では逃げられない体験談の注意点

    「※個人の感想であり、効果を保証するものではありません」という注記(打消し表示)は、魔法の言葉ではありません。この一文さえあれば、どんな体験談でも許されるわけではないのです。

    • 景品表示法上の問題:
      体験談で語られる効果(例:「1ヶ月で10kg痩せました!」)が、あたかも誰にでも実現できるかのような印象を与える場合、注記があっても全体として優良誤認表示と判断される可能性があります。
    • 薬機法上の問題:
      健康食品や化粧品の体験談で、医薬品的な効能効果(例:「長年の頭痛が治った」「アトピーが改善した」)を暗示する内容は、注記の有無にかかわらず薬機法違反とみなされるリスクが非常に高いです。

    ケース3:「打消し表示」が有効と認められる3つの条件

    前述の「個人の感想です」のように、広告の目立つ表示(主表示)が与える印象を限定・修正するための注記を「打消し表示」といいます。これが法的に有効と認められるには、以下の3つの条件を満たす必要があります(出典: 消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」(令和3年3月))。

    1. 明瞭性: 文字の大きさ、色、背景とのコントラストなどが適切で、消費者が容易に認識できること。
    2. 近接性: 主表示のすぐ近くに表示されていること。スクロールしないと見えない場所や、リンク先に記載されているだけでは不十分です。
    3. 関連性: 表示内容が、主表示と適切に対応していること。
    (記載例:有効な可能性が高い)
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    (記載例:無効と判断されるリスクが高い)
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    ケース4:健康食品・化粧品で特に注意すべき表現(ビフォーアフター写真等)

    健康食品や化粧品の広告では、薬機法違反のリスクが特に高まります。

    • ビフォーアフター写真:
      写真やイラストは、文字よりも強い影響力を持つため、使用には細心の注意が必要です。例えば、化粧品広告でシワが完全に消えているような加工を施した写真を使用すると、承認された効能効果の範囲を逸脱した誇大広告とみなされる可能性があります。
    • 身体の変化に関する表現:
      「細胞レベルで浸透」「遺伝子に働きかける」といった身体の組織機能に言及する表現や、「デトックス」「免疫力アップ」といった医学的な用語の使用は、医薬品的な効果を暗示するものとして薬機法違反となるリスクがあります。

    広告主の責任範囲はどこまで?第三者(インフルエンサー等)による表示の管理義務

    インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告が一般的になった今、「広告表示を作成したのは第三者だから、自社に責任はない」という言い分は通用しません。

    特に2023年10月に施行されたステマ規制では、たとえインフルエンサー自身の言葉による投稿であっても、事業者が依頼・指示しているなど、その表示内容の決定に関与したと認められる場合は事業者の「表示」とみなされ、広告主が景表法上の責任を負うことが明確化されました(出典: 消費者庁「ステルスマーケティングに関する景品表示法上の考え方」)。

    広告主には、インフルエンサーやアフィリエイターに対し、「#PR」「#広告」などの文言を消費者に分かりやすく表示するよう依頼し、それが適切に行われているかを確認する管理責任があります。

    景表法・薬機法に違反した場合のペナルティ

    万が一、景表法や薬機法に違反してしまった場合、企業は厳しいペナルティを受けることになります。

    措置命令・中止命令とは

    • 措置命令(景表法): 消費者庁から、違反表示の取りやめ、再発防止策の実施、一般消費者への周知徹底などが命じられます。命令に従わない場合は、刑事罰が科されることもあります。
    • 中止命令(薬機法): 厚生労働大臣や都道府県知事から、違反広告の中止や再発防止策が命じられます。

    これらの命令が出されると、企業名が公表されるため、売上への直接的な影響だけでなく、企業の信頼性やブランド価値が大きく毀損されることになります。

    課徴金制度の違い(景表法3% vs 薬機法4.5%)

    行政指導だけでなく、金銭的なペナルティも課されます。

    景表法・薬機法ともに違反行為によって得た経済的利益を剥奪するための「課徴金納付命令」制度が導入されています。

    両法の課徴金算定率は以下の通りです。

    法律課徴金算定率対象期間備考
    景品表示法対象商品・サービスの売上額の3%最大3年間(不当景品類及び不当表示防止法 第8条)
    薬機法対象商品・サービスの売上額の4.5%最大3年間2021年8月1日施行(薬機法 第75条の5の2)

    ※ 上記の課徴金率は基本であり、事業者が違反を自主的に報告した場合など、一定の要件を満たすことで減額される制度があります(景品表示法 第9条、薬機法 第75条の5の4)。

    薬機法の課徴金率が景表法より高く設定されており、違反行為に対する厳しい姿勢がうかがえます。売上規模の大きい商品で違反が認定された場合、課徴金額は数億円に上るケースも珍しくありません。

    まとめ:広告コンプライアンスで失敗しないための3つのアクション

    景品表示法と薬機法は複雑で、改正も頻繁に行われます。広告担当者として、意図せぬ違反を避け、企業を守るために、以下の3つのアクションを日々の業務に取り入れることをお勧めします。

    1. 「合理的根拠」を常に意識する: 特に効果や実績をアピールする際は、「その表示を裏付ける客観的なデータは何か?」を自問自答する癖をつけましょう。根拠資料は広告を出す前に準備し、いつでも提出できるように保管しておくことが重要です。
    2. 消費者目線で広告を見直す: 「この表示は、一般の消費者に誤解を与えないか?」「注記や但し書きは、分かりやすく表示されているか?」といった消費者視点でのセルフチェックが、有利誤認や優良誤認のリスクを低減させます。
    3. 専門家のレビューを活用する: 広告表現の最終判断に迷った場合は、自社の法務部門や顧問弁護士など、法律の専門家に相談することが最も確実なリスクヘッジになります。特に新商品や大規模なキャンペーンの前には、専門家のレビューを受ける体制を整えておきましょう。

    広告は企業の成長に不可欠ですが、その土台には法令遵守という大原則があります。本記事で解説したポイントを参考に、攻めと守りのバランスが取れた、健全なマーケティング活動を推進してください。


    参考資料

    免責事項

    本記事は、広告規制に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の広告表現の適法性について法的な助言や保証を行うものではありません。具体的な事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令・ガイドラインは改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認ください。本記事の情報は2025年10月28日時点のものです。



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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