フリーランス法 即時解除できる5つのケースとは?2024年新法完全ガイド
お役立ち記事一覧に戻る2024年11月1日に施行されたフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスとして働く事業者を保護するための法律です。本稿執筆時(2025年11月)で施行から約1年が経過し、これまで不安定になりがちだった契約関係において、特に契約の中途解除に関するルールが明確化されています。
原則として、発注者が継続的な業務委託契約を解除する場合「30日前までの予告」が義務付けられますが、特定の状況下ではこの予告なく「即時解除」が認められる場合があります。「突然契約を切られてしまった」といった事態に備えるため、また、発注者として法令違反を避けるためにも、即時解除が法的に許容される条件を正しく理解しておくことは極めて重要です。
この記事では、フリーランス新法における契約解除の基本原則から、即時解除が認められる例外的なケース、具体的な手続き、そしてトラブルを防ぐための実務ポイントまで、法務感度の高い視点で分かりやすく解説します。
まずは、フリーランス新法における契約解除の基本的な考え方を理解しましょう。法律の目的と対象者を把握することが、例外規定を正しく理解するための第一歩となります。
Contents
フリーランス新法の対象と目的

フリーランス新法は、業務委託契約のもとで働く事業者(特定受託事業者)が、発注者(特定業務委託事業者)との間で安定した取引を行えるよう、その環境を整備することを目的としています。
この法律の保護対象は、従業員を雇用しない個人事業主や、代表者1名のみの法人(小規模法人)などです。重要なのは、雇用契約を結ぶ「労働者」とは異なるという点です。指揮命令関係のもとで働く労働者は労働基準法で保護されますが、フリーランスは事業者として対等な立場にあるため、これまで契約トラブル時に弱い立場に置かれがちでした。この状況を改善するのが新法の狙いです。
フリーランス新法って、私のような個人事業主を守るための法律なんだ。でも、契約解除のルールはどう変わったんだろう…?
フリーランス新法と隣接制度の比較
フリーランス新法は個人事業主等の保護に特化していますが、類似の制度として「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法、略称:取適法、2026年1月施行予定)」があります。両者の適用対象・目的を明確に区別することで、誤った適用を避けられます。以下に比較表を示します。
| 項目 | フリーランス新法 | 取適法(施行予定) |
|---|---|---|
| 適用対象 | 個人事業主・小規模法人(従業員なしまたは代表1名のみ) | 中小企業間(製造委託等)の取引 |
| 主な目的 | フリーランスの保護と事業者間取引の適正化 | 中小受託事業者に対する代金支払遅延の防止 |
| 契約解除関連 | 予告義務・即時解除の例外(第16条) | 主に支払遅延防止(解除規定は間接的) |
| 執行機関 | 公正取引委員会・厚生労働省 | 中小企業庁中心 |
このように、フリーランス新法は雇用関係を伴わない業務委託に焦点を当てており、労働基準法や取適法とは射程が異なります。自身の状況がどの制度に該当するかは、契約実態を慎重に確認してください。
契約解除の基本ルール(30日予告義務)

フリーランス新法の最も重要なルールの一つが、契約解除に関する予告義務です。
特定業務委託事業者(発注者)が、6ヶ月以上の継続的な業務委託契約を中途解除したり、契約更新をしなかったりする場合には、原則として契約期間が満了する30日前までに、その旨を特定受託事業者(フリーランス)に予告しなければなりません(フリーランス新法第16条1項、令和6年11月1日施行)。
この規定により、フリーランスは突然収入の道を絶たれるリスクが軽減され、次の仕事を探すための期間を確保できるようになります。もし発注者が正当な理由なくこの予告義務を怠った場合、その解除は法的に無効と判断される可能性があります。
施行1年での執行実績
施行から約1年(2024年11月〜2025年10月)の状況として、公正取引委員会の発表によると、指導・勧告件数は445件に上っています。このデータは、法の浸透と行政の積極的な執行を示すものであり、発注者側は法令遵守の重要性を再認識する必要があります(出典:公正取引委員会発表、2025年)。
【例外】フリーランス新法で即時解除が法的に許容される5つのケース
原則として30日前の予告が必要ですが、法律には例外がつきものです。フリーランス新法でも、特定の条件下では発注者による即時解除が認められています。これらの例外事由は厳格に解釈されるべきものであり、発注者が安易に適用できるものではありません。
具体的には、以下の5つのケースが定められています(フリーランス新法第16条1項ただし書、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第4条、令和7年10月1日改正)。
- 災害その他やむを得ない事由がある場合
- 特定受託事業者(フリーランス)の責めに帰すべき事由がある場合
- 元請契約の解除等により業務の大部分が不要となった場合
- 短期間の個別業務委託契約の場合
- 相当期間、業務委託の実態がない場合
以下、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
災害その他やむを得ない事由がある場合

天災地変(地震、洪水など)や、その他の不可抗力によって、発注者が事業を継続できなくなり、予告を行うこと自体が困難になった場合です。
例えば、発注者の事業所が大規模な火災に見舞われ、物理的に業務の委託が不可能になった、といった状況がこれに該当します。単なる経営不振や資金繰りの悪化は「やむを得ない事由」には通常含まれないと解されています(出典:厚生労働省『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 解釈ガイドライン』、2025年10月1日改正版、https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001215320.pdf、p.32-35)。
フリーランス側の責めに帰すべき事由(重大違反)

これが最も解釈が複雑で、トラブルになりやすいケースです。フリーランス側に重大な契約違反や背信行為があった場合には、即時解除が正当化されることがあります。
「責めに帰すべき事由」が一番気になる!普通のミスでも即時解除されちゃうのかな?
重要なのは、単なる軽微なミスや納期遅延ではなく、「契約の目的達成が不可能なほどの重大な債務不履行」が必要とされる点です。この解釈は、民法第541条の「催告不要解除」の考え方が参考にされます。
具体的には、以下のような例が考えられます。
- 納品物に重大な欠陥があり、修正を再三求めても応じない
- 機密情報を故意に第三者へ漏洩した
- 法律違反行為や公序良俗に反する行為を行った
- 長期間にわたり連絡が取れず、業務を放棄した状態にある
契約書に「少しでも納期が遅れた場合は即時解除できる」といった条項があっても、それがフリーランスにとって一方的に不利益な場合は、法の趣旨に反し無効とされる可能性があります。ただし、契約条項は個別事案により有効性が判断されるため、現契約を最優先に専門家相談を推奨(フリーランス新法の趣旨に反する場合、無効の可能性あり)。
| (記載例)発注者に有利すぎる条項の例 第X条(解除) 乙(フリーランス)が、本契約に定める義務のいずれか一つにでも違反した場合、甲(発注者)は、何らの催告を要することなく、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。 |
上記のような包括的な解除条項は、フリーランス新法の趣旨に照らして無効と判断されるリスクがあります。
元請契約解除による業務不要の場合

発注者自身が上位のクライアント(元請)から委託された仕事の一部をフリーランスに再委託しているケースで、その元請契約が解除された場合です。
ただし、再委託していた業務の「大部分」が不要になる必要があります。一部の業務がなくなった程度では、即時解除の理由としては不十分です。
短期間契約や相当期間未実施の場合

もともとの契約が30日以下と短期間である場合や、契約は結んでいるものの相当な期間(例えば1ヶ月以上)にわたって一度も業務の発注が行われていないような場合は、予告義務の対象外となります。これらは、そもそも長期的な信頼関係を前提とした継続的契約とは性質が異なると考えられるためです。
即時解除の具体的な手続と民法との関係
発注者が例外事由に該当すると判断し、即時解除に踏み切る場合でも、適切な手続きを踏む必要があります。特に「理由の開示」は、トラブルを避ける上で非常に重要です。
解除通知の方法と有効性判断

法律上、解除の意思表示に特定の方式は定められていないため、口頭での通知も有効と解釈される余地はあります。しかし、後の紛争を防ぐためには、「いつ」「誰が」「どのような理由で」解除したのかを明確にするため、書面(解除通知書)やメールなど記録に残る形で行うのが賢明です。
内容証明郵便を利用すれば、通知した事実とその内容を郵便局が証明してくれるため、最も確実な方法と言えます。
理由開示義務(第16条2項)とその活用

即時解除された場合、フリーランスは発注者に対して解除理由の開示を請求することができます(フリーランス新法第16条2項)。請求を受けた発注者は、書面または電磁的方法(メールなど)で、具体的な理由を説明する義務を負います。この義務がフリーランス保護の最後の砦である点を強調します。理由開示請求は、フリーランスが不当な解除から身を守るための重要な権利です。発注者が理由を明確に説明できない場合、その解除は法的に無効と判断される可能性が高まります(出典:厚生労働省『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 解釈ガイドライン』、2025年10月1日改正版、https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001215320.pdf、p.32-35)。なお、令和8年1月1日からは新ガイドラインが施行される予定のため、施行時に最新情報をご確認ください。
これはフリーランスにとって非常に強力な権利です。あいまいな理由で契約を打ち切られそうになった際に、具体的な根拠を示すよう求めることで、発注者側の安易な解除を防ぐ抑止力になります。
開示された理由が、先に述べた5つの例外事由のいずれにも該当しない、または客観的な証拠に乏しい場合は、その解除が無効であると主張する根拠となります。
民法における催告不要解除との関係

フリーランス新法の「責めに帰すべき事由」による即時解除は、民法の「催告不要解除」(民法第541条)の考え方と密接に関連しています。
民法では、契約の相手方に重大な債務不履行があり、契約の目的を達成できないような場合には、催告(改善を求める通知)をすることなく契約を解除できるとされています。フリーランス新法における即時解除も、これに準ずるような著しく重大な違反が求められると理解しておくことが重要です。
フリーランス新法の即時解除に関するFAQ

ここで、即時解除に関してよくある質問をまとめました。
Q1. 即時解除された場合、それまでの分の報酬はもらえませんか?
すでに履行(作業)が完了した部分については、原則として報酬を請求する権利があります。契約解除は将来に向かって効力を生じるものであり、過去に遡って契約が無効になるわけではありません。未払いの報酬がある場合は、速やかに請求しましょう。
Q2. 「連絡が取れない」という理由で即時解除されました。正当ですか?
ケースバイケースですが、単に1〜2日返信が遅れた程度では「責めに帰すべき事由」には該当しない可能性が高いです。業務の遂行に支障をきたすほど長期間、合理的な理由なく音信不通になっているような悪質な場合に限り、正当な理由と認められる余地があります。
Q3. 発注者ですが、フリーランスの能力不足を感じます。即時解除できますか?
単なる主観的な「能力不足」や「期待とのミスマッチ」は、即時解除の理由として認められにくいです。契約書や仕様書で定められた品質基準を著しく下回る成果物しか納品されず、修正にも応じないなど、契約の目的を根本から達成できない客観的な事実が必要です。トラブルを避けるためには、まず契約内容の確認や改善の要請(催告)を行うのが一般的です。
トラブルを未然に防ぐ実務上のヒント

即時解除をめぐるトラブルは、フリーランスと発注者の双方にとって大きな負担となります。問題を未然に防ぐためのポイントを解説します。
立証の難しさと証拠保全の重要性
即時解除の有効性が争いになった場合、「例外事由に該当する事実があったこと」を立証する責任は、原則として解除を主張する発注者側にあります。
このため、フリーランス側は不当な解除を主張された際に、自身の業務が適切であったことを示す証拠を日頃から整理しておくことが重要です。
- やり取りのメールやチャット履歴
- 納品物の控え
- 業務報告書
一方、発注者側が正当な理由で解除を検討する際は、フリーランス側の契約違反を客観的に示す証拠(例:修正依頼を無視されたメール、漏洩の事実を示す記録など)を確保することが不可欠です。
もしトラブルに発展しそうな場合は、公正取引委員会や中小企業庁が設置する「フリーランス・トラブル110番」などの行政の相談窓口を活用することも有効です。
契約書の条項チェックとリスク回避

トラブルの多くは、曖昧な契約内容に起因します。契約を締結する際に、特に解除条項について不利な内容になっていないかを確認することが最も効果的な予防策です。
チェックポイント
- どのような場合に即時解除できるか、理由が具体的かつ合理的に定められているか?
- 「甲(発注者)は、乙(フリーランス)の責めに帰すべき事由の有無を問わず、いつでも本契約を解除できる」といった一方的な条項はないか?
- 報酬の支払条件や、納品物の検収期間が明確になっているか?
フリーランス新法の趣旨に反する不当な契約条項は無効となる可能性がありますが、そもそもそうした条項を含む契約は避けるのが賢明です。フリーランスと雇用契約の違いを正しく理解し、適切な業務委託契約を結ぶことが双方のリスクを低減させます。
まとめ

フリーランス新法は、フリーランスの契約上の立場を強化し、安定した事業環境を築くための重要な一歩です。契約解除に関しては、原則として30日前の予告義務が発注者に課せられました。
即時解除はあくまで例外であり、
- 災害などの不可抗力
- フリーランス側の重大な契約違反
- 元請け契約の終了による業務消滅
など、法律で定められた5つの限定的なケースでのみ認められます。特に、フリーランス側の責任を問う場合は、民法の考え方も参考にされ、非常に厳格に解釈されます。
もし不当な即時解除に直面した場合は、理由開示請求権を活用し、冷静に証拠を揃えて対応しましょう。発注者側も、安易な即時解除は法的リスクを伴うことを認識し、慎重な判断と誠実な対話が求められます。
この法律を正しく理解し、契約段階から適切な備えをしておくことが、フリーランス、発注者の双方にとって健全で良好な取引関係を築く鍵となります。
参考資料
- e-Gov法令検索. (2024年). 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和6年11月1日施行). https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
- 厚生労働省. (2025年). 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要等, https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001215320.pdf, p.32-35.
- 公正取引委員会. (2024年). フリーランスとして業務を行う方・フリーランスに業務を委託する事業者の方へ. https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/
- e-Gov法令検索. (2024年). 民法. https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC1000000110
免責事項
本記事は、フリーランス新法における契約の即時解除に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する法的な助言を行うものではありません。具体的な法務相談については、弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令やガイドラインは改正される可能性があるため、常に最新の情報をご参照ください。

植野洋平 |弁護士(第二東京弁護士会)
検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。