会社設立準備の完全ガイド:7ステップで初心者も安心法人化
お役立ち記事一覧に戻る会社設立の準備は、多くの起業家にとって最初の大きなハードルです。夢を実現するための一歩ですが、「何から手をつければいいのか」「法的な手続きが複雑で分からない」といった不安を抱える方も少なくありません。特に、会社法や商業登記法などの法律が関わるため、正確な知識なしに進めると、後々思わぬトラブルにつながる可能性があります。
この記事では、法務感度の高いライター兼リサーチャーが、公的な一次情報(法令や省庁のガイドライン)に基づき、株式会社の設立準備に必要な手順を網羅的に解説します。定款の作成から設立登記、さらには設立後の届出まで、各ステップでやるべきこと、注意すべきポイントを具体的に明らかにします。この記事を読めば、会社設立準備の全体像を正確に把握し、自信を持って第一歩を踏み出せるようになります。
Contents
会社設立準備の全体像:7つのステップ

会社設立の準備は、大きく分けて7つのステップで構成されます。各ステップは会社法(最終改正:令和五年六月)(出典: e-Gov, p.1)で定められた手続きを含んでおり、順序通りに進めることが重要です。まずは全体像を把握し、計画的に準備を進めましょう。
会社設立って聞くと難しそうだけど、具体的にどんな手順で進めるんだろう?全体像が分かると安心できるんだけどな…
会社設立の法的根拠とタイムライン
会社設立は、単なる事業の開始宣言ではありません。会社法(最終改正:令和五年六月)という法律に基づき、法人格を取得するための厳格な法的手続きです。法人格を得ることで、会社名義での契約や銀行口座の開設が可能になり、社会的信用も高まります。
一般的な株式会社設立の準備は、以下のような流れで進みます。全体の期間としては、準備開始から登記完了までおよそ1ヶ月〜2ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。
| ステップ | 主な内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 基本事項の決定 | 商号、事業目的、本店所在地、資本金額、発起人、役員構成などを決める | 1週間~ |
| 2. 定款の作成・認証 | 会社の根本規則である「定款」を作成し、公証役場で認証を受ける | 1~2週間 |
| 3. 資本金の払込み | 発起人の個人口座に資本金を払い込み、その証明書を用意する | 1日~数日 |
| 4. 設立登記書類の作成 | 法務局へ提出する申請書や添付書類を準備する | 1~2週間 |
| 5. 設立登記の申請 | 管轄の法務局に設立登記を申請する(※申請日が会社設立日) | 1日 |
| 6. 登記完了・各種証明書の取得 | 登記が完了したら、登記事項証明書や印鑑証明書を取得する | 1~2週間 |
| 7. 設立後の届出 | 税務署、自治体、年金事務所などに必要な届出を行う | 登記完了後~2ヶ月以内 |
準備開始前のチェックリスト
手続きを始める前に、まず会社の骨格となる基本事項を決定しておく必要があります。これらの項目は後続の定款作成や登記申請で全て必要となる情報です。
- 商号(会社名): 他の会社と同一の住所で同じ商号は使えません。法務局のオンラインシステムなどで類似商号の調査を行いましょう。
- 事業目的: 会社がどのような事業を行うかを具体的に定めます。許認可が必要な事業は、その要件を満たす目的を記載する必要があります。
- 本店所在地: 会社の住所をどこにするか決定します。自宅やレンタルオフィスも可能です。注記: 本店所在地として「自宅」「レンタルオフィス」「バーチャルオフィス」などが選択可能ですが、自治体によっては特定の住所で法人設立を制限する条例がある場合があります。設立前に管轄の市区町村役所に確認することをお勧めします。
- 資本金の額: 会社法上は1円から設立可能ですが、事業の運転資金や社会的信用を考慮して設定します。
- 発起人(出資者): 会社を設立する人(出資者)を決めます。
- 役員構成: 取締役や代表取締役などを誰にするか決めます。
これらの基本事項を固めることで、その後の手続きがスムーズに進みます。
定款の作成と認証:会社の憲法を作る

基本事項が決まったら、次に行うのが「定款」の作成と認証です。これは会社設立手続きにおける最初の、そして最も重要なステップの一つです。
定款とは?記載すべき内容
定款(ていかん)とは、会社の組織や運営に関する根本的なルールを定めた書類で、「会社の憲法」とも呼ばれます。会社法第27条(最終改正:令和五年六月)(出典: e-Gov, p.10)に基づき、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、定めがなければ効力が生じない「相対的記載事項」などがあります。
絶対的記載事項(会社法第27条、最終改正:令和五年六月)
- 目的(事業内容)
- 商号(会社名)
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(資本金)
- 発起人の氏名又は名称及び住所
これらのうち一つでも欠けていると、定款自体が無効となってしまいます。
| (記載例)事業目的 第2条(目的) 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1.コンピューターソフトウェアの企画、開発、販売 2.ウェブサイトの企画、制作、運営 3.前各号に附帯関連する一切の事業 |
定款認証の手続きと電子定款の活用
作成した定款は、株式会社の場合、公証役場で定款認証という手続きを経る必要があります。これは、定款が正当な手続きによって作成されたことを公証人が証明するものです(出典:日本公証人連合会)。
定款認証の流れ
- 定款案を作成する。
- 公証役場に事前に連絡し、内容の確認を依頼する(推奨)。
- 必要書類(発起人全員の印鑑証明書など)を準備する。
- 公証役場に出向き、認証を受ける。
注目ポイント:電子定款なら収入印紙代4万円が不要に!
従来は紙の定款が主流でしたが、現在では電子定款の利用が広がっています。
紙の定款を認証する場合、印紙税法に基づき4万円の収入印紙を貼付する必要があります。しかし、電子定款であればこの印紙代が不要となり、設立費用を大幅に節約できます。
ただし、電子定款の作成には専用のソフトやICカードリーダーライタが必要となるため、ご自身で対応が難しい場合は、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
資本金の引受けと払込み:会社の基礎体力を確保する

定款認証が終わったら、次は資本金の払込みです。資本金は会社の事業活動の元手となる重要なお金です。
資本金とは?その役割と金額の目安
資本金とは、会社設立時に発起人(出資者)が会社に払い込む資金のことです。これは設立費用として消費されるものではなく、設立後の会社の財産となります。
会社法上、資本金は1円からでも設立可能ですが、実際には以下の点を考慮して金額を決めるのが賢明です。
- 社会的信用: 資本金額は登記事項証明書に記載され、誰でも閲覧できます。あまりに少額だと、取引先や金融機関からの信用が得にくい場合があります。
- 運転資金: 設立当初は売上がすぐには立たないことも多いため、数ヶ月分の運転資金(家賃、人件費など)を資本金でカバーできると安心です。
- 許認可の要件: 特定の事業(建設業など)を行う場合、許認可の要件として一定額以上の資本金が定められていることがあります。
一般的には、300万円〜1,000万円程度で設立するケースが多いですが、事業内容に応じて適切な額を設定しましょう。
払込みの証明方法と注意点
資本金の払込みは、定款認証日以降に、発起人の代表者の個人名義の銀行口座に対して行います。払込みは定款認証から登記申請までの間に行い、資本金払込後原則2週間以内に登記申請することが推奨されます。この期間を過ぎると手続きをやり直す必要が出てくる可能性があるため、スケジュール管理が重要です。
払込みを証明するために必要なもの
- 払込みがあったことが分かる預金通帳のコピー
- 通帳の表紙
- 通帳の1ページ目(支店名、口座番号、名義人が記載されているページ)
- 各発起人からの入金が記帳されたページ
- 法務局に提出する「払込証明書」
💡 気づき:会社用の口座はまだ作れないから、発起人の個人口座を使うんだね。振込の記録がちゃんと残るようにしないと!
注意点として、資本金の払込みから原則2週間以内に設立登記を申請することが推奨されます。この期間を過ぎると手続きをやり直す必要が出てくる可能性があるため、スケジュール管理が非常に重要です。
設立時役員等の選任:会社の経営陣を決める

会社の経営を担う役員(取締役など)を選任する手続きも、設立段階で必要です。
設立時役員の選任プロセス
設立時取締役などの役員は、定款で直接定めるか、定款で定めない場合は会社法第38条第2項(最終改正:令和五年六月)(出典: e-Gov, p.18)に基づき発起人の議決権の過半数をもって選任します。選任された役員は、就任を承諾する旨の「就任承諾書」を作成し、登記申請の際に添付書類として提出します。また、議事録作成は会社法第29条(最終改正:令和五年六月)(出典: e-Gov, p.12)に基づく義務です。
議事録の作成と保管義務
発起人が複数いる場合、設立に関する重要事項を決定するために「発起人会」を開催し、その内容を記録した発起人会議事録を作成することがあります。
また、設立時取締役が複数いる場合は、代表取締役を選定するための「設立時取締役の互選書」や「設立時取締役会議事録」が必要になります(会社法第40条、最終改正:令和五年六月)(出典: e-Gov, p.19)。
これらの議事録は、法務局での登記審査や、設立後の税務署への届出、銀行口座の開設時などに提出を求められる重要な書類です。正確に作成し、大切に保管しましょう。
設立登記申請と登録免許税:法人格の誕生

いよいよ、会社を法的に誕生させるための最終ステップ、「設立登記申請」です。
設立登記とは?必要書類と申請先
設立登記とは、会社の情報を法務局の登記簿に登録する手続きです。この登記申請が受理された日(申請日)が、会社の「設立日」となります。申請方法により設立日の確定が異なります。
| 申請方法 | 設立日の確定基準 | 注意点 |
|---|---|---|
| 窓口申請 | 申請日 | 法務局の営業日(平日)に限定 |
| 郵送申請 | 法務局到着日 | 到着確認のため早めの郵送を |
| オンライン申請 | 申請日 | 電子署名等の準備が必要 |
詳細は法務局公式ポータルを参照してください。商業登記法第49条(最終改正:令和四年十二月)(出典: e-Gov, p.45)に基づき、申請は会社の本店所在地を管轄する法務局に対して行います。申請には、多数の書類が必要です。
主な必要書類
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付)
- 定款(認証済みのもの)
- 発起人の決定書
- 役員の就任承諾書
- 役員の印鑑証明書
- 資本金の払込証明書
- 実質的支配者となるべき者の申告書(商業登記法施行規則第35条等(2023年改正施行)(出典: e-Gov, p.20)に基づく、全設立対象)
- 印鑑届出書 など
書類に不備があると、補正(修正)を求められたり、最悪の場合、申請が却下されたりすることもあります。不安な方は司法書士への相談を検討するとよいでしょう。
登録免許税の計算と電子申請のメリット
設立登記を申請する際には、登録免許税という税金を納める必要があります。これは登記手続きに対する手数料のようなものです。
株式会社の設立登記における登録免許税の額は、以下の計算式で算出されます(登録免許税法第3条(最終改正:令和四年十二月、令和4年改正が現行)(出典: e-Gov, p.3))。
| 資本金の額 × 0.7% = A A ≥ 15万円の場合 → 納付額 = A A < 15万円の場合 → 納付額 = 15万円(最低額) |
| 例:資本金300万円の場合 300万円 × 0.7% = 21,000円 < 150,000円 ∴ 納付額 = 150,000円 |
例えば、資本金が300万円の場合、納める税金は15万円です。資本金が約2,143万円を超えると、税額は15万円を上回ります。
登記申請は、法務局の窓口や郵送のほか、オンライン(電子申請)でも可能です。電子申請を利用することで、書類作成の手間が削減されますが、登録免許税の割引は原則適用されません。
設立後の届出と実務Tips:事業開始に向けた最後の仕上げ

登記が完了し、会社が設立された後も、やらなければならない手続きが残っています。これらを怠るとペナルティが課されることもあるため、迅速に対応しましょう。
税務・社会保険に関する届出
会社を設立したら、主に以下の役所へ届出が必要です。提出期限が短いものも多いので注意してください。
| 提出先 | 主な届出書類 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 税務署 | 法人設立届出書、青色申告の承認申請書(開業から2ヶ月以内、または決算期の3ヶ月前いずれか早い日)、給与支払事務所等の開設届出書 | 設立後2ヶ月以内など |
| 都道府県・市区町村 | 法人設立・設置届出書(自治体により様式差異あり) | 自治体により異なる(設立後1ヶ月以内など) |
| 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 事実発生から5日以内 |
| ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 設置の日の翌日から10日以内 |
| 労働基準監督署 | 労働保険関係成立届 | 保険関係成立の日の翌日から10日以内 |
特に、税務署への「青色申告の承認申請書」は、開業から2ヶ月以内に提出を要します。期限経過後は当該事業年度から青色申告による税制優遇(最大65万円控除など)が受けられず、納税額が増加するリスクがあります(出典:国税庁)。
司法書士への委任 vs 本人申請
これら一連の設立手続きは、自分自身(本人)で行うことも、司法書士などの専門家に依頼することも可能です。
- 本人申請のメリット: 専門家への報酬が不要なため、費用を抑えられます。
- 本人申請のデメリット: 書類作成や手続きに時間がかかり、ミスが起こるリスクがあります。法的な知識も必要です。
- 司法書士委任のメリット: 複雑な書類作成や申請手続きを正確かつ迅速に代行してもらえます。電子定款にも対応しているため、結果的にコストを抑えられる場合もあります。
- 司法書士委任のデメリット: 報酬(数万円〜)が発生します。
なお、報酬を得て登記申請を代行できるのは司法書士のみ(司法書士法第3条(最終改正:令和六年四月))と法律で定められています。司法書士以外の者が報酬を得て法律事務を取り扱うことは非弁行為(弁護士法第72条(最終改正:令和六年四月)(出典: e-Gov, p.45)、違反)で、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられる可能性があるため、専門家選びは慎重に行いましょう。
よくある質問(FAQ)

最後に、会社設立の準備に関してよくある質問にお答えします。
Q1. 資本金は本当に1円でも大丈夫?
A1. 法律上は可能ですが、お勧めはしません。資本金は会社の信用度や初期の運転資金に直結します。事業計画に基づき、少なくとも3ヶ月程度の運転資金を目安に設定するのが一般的です。
Q2. 会社設立日は自由に決められますか?
A2. 設立日は「法務局に登記申請書を提出した日」となります。したがって、土日祝日や年末年始など、法務局の閉庁日は設立日にできません。希望の設立日がある場合は、その日に合わせて書類を提出する必要があります。
Q3. 設立後の届出を忘れるとどうなりますか?
A3. 届出によってペナルティは異なります。例えば、税務署への「青色申告の承認申請」が遅れると、その事業年度は税制優遇が受けられず、納税額が増える可能性があります。また、社会保険の加入手続きが遅れると、遡って保険料を請求されるだけでなく、延滞金が課されることもあります。期限内に必ず手続きを完了させましょう。
Q4. 事業目的は後から変更できますか?
A4. 可能です。ただし、事業目的の変更には、株主総会での決議と、法務局での変更登記手続きが必要となり、登録免許税(3万円)もかかります。将来的に行う可能性のある事業は、設立時の定款に含めておくと効率的です。
Q5. 外国人起業家の場合、特別な要件はありますか?
A5. 2025年1月施行の外国人起業家向け特定活動44号ビザにより、従来の資本金500万円要件が撤廃され、日本国内での会社設立ハードルが低下しています。ただし、ビザ申請の詳細は出入国在留管理庁のガイドラインを確認し、個別の状況に応じて専門家に相談してください(出典: 出入国在留管理庁)。
まとめ:正確な知識で、スムーズな会社設立を
会社設立の準備は、法律に基づいた多くの手続きを伴う複雑なプロセスです。しかし、一つ一つのステップを正しく理解し、計画的に進めることで、誰でも乗り越えることができます。
- 全体像の把握: まずは基本事項決定から設立後の届出まで、一連の流れを理解しましょう。
- 定款作成: 会社の憲法となる重要な書類です。電子定款を活用すればコストを削減できます。
- 資本金の準備: 事業計画に合わせて適切な額を設定し、定款認証後に速やかに払い込みます。
- 登記申請: 必要書類を漏れなく準備し、管轄の法務局に申請します。申請日が設立日となります。
- 設立後の届出: 税務や社会保険の手続きを期限内に必ず行いましょう。
これらの手続きは、時間と労力がかかります。特に法的な正確性が求められるため、少しでも不安があれば、司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家の力を借りることで、あなたは本来集中すべき事業計画の策定やサービス開発に時間とエネルギーを注ぐことができます。この記事が、あなたの新たな挑戦への確かな一助となれば幸いです。
免責事項
本記事は、会社設立に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の案件に対する法的アドバイスを提供するものではありません。法律や各種制度は頻繁に改正される可能性があります。実際の手続きにあたっては、必ず最新の法令をご確認いただくか、専門家にご相談ください。

植野洋平 |弁護士(第二東京弁護士会)
検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。