• 法律
  • その他
  • お役立ち記事
  • ミニコラム
  • 公正証書の電子化はいつから?【2025年10月改正】リモート手続きの対象と注意点

    お役立ち記事一覧に戻る

    公正証書の手続きを役場に行かずに、リモートで完結させたいとお考えではありませんか。働き方の多様化やデジタル化の進展に伴い、公正証書の電子化・リモート化への関心が高まっています。しかし、「どの文書が対象なのか」「いつから可能になるのか」「現行制度と何が違うのか」など、情報が複雑で分かりにくいと感じる方も多いでしょう。

    特に、令和7年10月1日に施行される改正公証人法(令和5年6月14日法律第53号)は、手続きに大きな変化をもたらします。この記事では、法務省や日本公証人連合会の公式情報に基づき、公正証書の電子化・リモート化について徹底解説します。

    現行制度で「今できること」と、法改正によって「これからできるようになること」を明確に区別し、具体的な手続きの流れや費用、注意点までを網羅的にご紹介します。この記事を読めば、あなたが検討している手続きがリモート化の対象となるか、どのような準備をすればよいかが明確になります。


    【非常に重要】本記事の利用に際しての注意事項

    ✓ 本記事は制度の一般的な解説であり、特定の契約や事案に対する法的助言ではありません。
    ✓ 遺言、離婚給付契約、任意後見契約等の作成を検討している場合は、弁護士、司法書士、行政書士等の法律専門家にご相談ください。
    ✓ 公正証書の対象となるか否かの判断、またリモート手続きの可否については、必ず事前に公証役場へ直接ご確認ください。
    ✗ 本サイト、本記事の著者は、読者の具体的な法律問題に対する相談対応を行っていません。(弁護士法第72条参照)


    【重要なお知らせ】遺言・任意後見契約はリモート作成の対象外です

    遺言公正証書と任意後見契約公正証書は、2025年10月1日の改正公証人法施行後も、リモート作成の対象外です。これらの文書は、当事者の真意を特に慎重に確認する必要があるため、引き続き公証人との対面での手続きが法律で定められています。(改正公証人法 附則第3条)

    公正証書のリモート手続きは、文書の種類と時期によって「できること」が大きく異なります。まずは結論として、現在の状況と2025年10月1日からの変更点をまとめた早見表をご覧ください。

    Contents

    リモート対応可否が一目でわかる早見表

    文書・手続きの種類現在
    (~2025年9月30日)
    2025年10月1日以降
    ① 定款の認証◯ 可能◯ 可能
    ② 私署証書の認証◯ 可能◯ 可能
    ③ 契約公正証書の作成
    (金銭消費貸借、離婚給付等)
    ✕ 不可△ 原則可能に
    ④ 遺言公正証書の作成✕ 不可✕ 不可(対象外)
    ⑤ 任意後見契約公正証書の作成✕ 不可✕ 不可(対象外)

    表が示す通り、現時点でリモート化できるのは「認証」手続きが中心です。一方、2025年10月からは、契約公正証書の「作成」も原則としてリモートで可能になります。

    誤解しやすい3つのポイント:「認証」と「作成」の違いとは?

    💬 読者の疑問:「公正証書」と一括りに考えていたけど、「認証」と「作成」では手続きが全く違うんだ…。具体的にどう違うの?

    この違いを理解することが、リモート手続きを正しく理解する鍵となります。

    1. 私署証書の「認証」(電子公証)
      • 内容: 当事者が作成した契約書や委任状などの文書(私署証書)について、その署名が本人によるものであることを公証人が証明する手続きです。
      • 公証人の役割: 文書の内容の適法性や有効性を判断するのではなく、あくまで「署名の真正」を証明します。
      • 現状: テレビ電話等を利用したリモートでの手続きが既に可能です。
    2. 公正証書の「作成」
      • 内容: 当事者からの依頼(嘱託)に基づき、公証人自らが法律の専門家として文書の内容を聴き取り、法律に従って作成する公文書です。遺言書や金銭消費貸借契約書などが典型例です。
      • 公証人の役割: 内容の作成から関与し、文書に強い証明力や、場合によっては強制執行力を持たせます。
      • 現状: 原則として公証役場への出頭が必須です。これが2025年10月から一部リモート化されます。
    3. 「電子化」と「リモート化」の関係
      • 電子化: 2025年10月以降、公正証書の原本が「紙」ではなく「電子データ」で作成・保存されることが原則となります。
      • リモート化: この「電子化」を前提として、当事者が公証役場に出頭せず、テレビ電話等で本人確認や意思確認を行い、手続きを完結させることが可能になります。

    つまり、「認証」は今すぐリモートで可能、「作成」は2025年10月から一部可能になる、と覚えておきましょう。

    【現行制度】テレビ電話等による認証(電子公証)とは?

    現在利用できる「電子公証制度」は、主に会社設立時の定款認証や、当事者間で作成した契約書の認証で活用されています。ここでは、その対象文書や要件、メリットについて解説します。

    リモート手続きの対象となる文書(定款・私署証書)

    日本公証人連合会が定める現行制度では、テレビ電話等を利用したリモート手続きの対象は以下の通りです。(出典:日本公証人連合会「電子公証制度」)

    • 株式会社等の定款の認証: 会社設立の際に必要な定款について、発起人らが作成した電子定款(PDFファイル)に公証人が認証を与えます。
    • 私署証書の認証: 個人間や企業間で作成された契約書、合意書、委任状などの電子文書に対し、作成名義人の署名が真正であることを公証人が認証します。

    これらの手続きは、公証人が文書内容を作成するのではなく、当事者が作成した電子文書の成立の真正を証明するものである点が共通しています。

    対象外の文書(遺言公正証書、契約公正証書の「作成」など)

    一方で、以下の手続きは現行制度ではリモート化の対象外であり、公証役場への出頭が必要です。

    • 公正証書の「作成」全般:
      • 遺言公正証書
      • 金銭消費貸借契約公正証書
      • 離婚給付契約公正証書
      • 任意後見契約公正証書 など

    これらの文書は、公証人が当事者の意思を直接確認し、内容を法的に整理して作成する必要があるため、厳格な対面での手続きが求められています。

    電子公証を利用するための3つの要件

    テレビ電話等による認証を利用するには、主に以下の準備が必要です。

    1. 指定公証人への依頼: 電子公証制度は、法務大臣から指定を受けた「指定公証人」のみが取り扱えます。事前に日本公証人連合会のウェブサイトなどで指定公証人が在籍する役場を探し、相談・予約する必要があります。
    2. 電子文書(PDF等)の準備: 認証を受けたい定款や私署証書をPDF形式などで作成します。
    3. 電子署名・電子証明書の準備: 当事者は、その電子文書が本人によって作成されたことを証明するために、電子署名を行う必要があります。電子署名には、その署名が本人のものであることを証明する「電子証明書」が必要です。
      • 個人の場合: マイナンバーカードに格納されている電子証明書が利用できます。
      • 法人の場合: 商業登記に基づく電子証明書などが利用できます。

    定款認証を電子化するメリット:収入印紙代4万円が不要に

    現行制度で特に大きなメリットがあるのが、株式会社の定款認証です。

    電子文書により作成された電子定款には、印紙税法上の課税文書に当たらないため、収入印紙(4万円)を貼付する必要がありません。

    (出典:日本公証人連合会「電子公証制度」)

    紙の定款で認証を受ける場合、印紙税法に基づき4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款であればこの印紙税が非課税となります。会社設立時のコストを抑えられるため、多くの起業家がこの制度を活用しています。

    関連情報として、会社設立手続きの全体像を知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
    (内部リンク:/article/company-incorporation-guide)

    【令和7年10月1日施行】改正公証人法で変わる!電子公正証書の作成

    令和7年10月1日に施行される改正公証人法により、公正証書の手続きはデジタル化に向けて大きく前進します。これまで原則対面が必須だった公正証書の「作成」が、一部リモートで可能になります。

    何が変わる?電磁的記録による公正証書の作成が原則に

    法改正の最大のポイントは、公正証書の原本が「紙」から「電磁的記録(電子データ)」になることです。(出典:法務省「公証人法及び公証人手数料令の一部を改正する法律案の概要」(令和5年6月), p.2)

    公正証書の作成方法について、書面による作成に代えて、電磁的記録により作成することを原則とする。

    これにより、当事者は公証役場に出頭せず、テレビ電話を通じて公証人とやり取りし、電子署名を行うことで公正証書を作成できるようになります(公証人法 第62条の11、第62条の12)。

    💡 気づき:なるほど、原本そのものがデータになるから、物理的に集まらなくても手続きを進めやすくなるんですね。これなら遠方の相手との契約もスムーズになりそうです。

    新たにリモート作成が可能になる公正証書(金銭消費貸借契約など)

    この法改正により、これまで対面が必須だった以下の公正証書の作成が、原則としてリモートで可能になります。

    • 金銭消費貸借契約公正証書
    • 事業用定期借地権設定契約公正証書
    • 離婚に伴う財産分与・養育費に関する契約公正証書
    • 事実実験公正証書 など

    これにより、例えば遠隔地に住む親族間の金銭の貸し借りや、別居中の夫婦間での離婚条件の取り決めなどを、移動の負担なく公正証書として残せるようになります。

    【注意】法改正後もリモート作成ができない公正証書(遺言・任意後見契約)

    非常に重要な注意点として、今回の法改正でも、一部の公正証書はリモート作成の対象から除外されています。

    (改正公証人法 附則第3条)
    当分の間、遺言及び任意後見契約に関する法律第三条に規定する任意後見契約に係る公正証書については、なお従前の例による。

    具体的には、以下の2つは、当事者の真意を特に慎重に確認する必要があるため、法改正後も引き続き、公証人との対面での手続きが必須となります。

    • 遺言公正証書
    • 任意後見契約公正証書

    将来的に対象が拡大される可能性はありますが、2025年10月1日の施行時点では対象外であると明確に理解しておく必要があります。

    電子正本・謄本の交付と法的効力

    法改正後は、作成された電子公正証書の「正本」や「謄本」も、電子データとして交付されることが基本となります。

    • 交付方法: 安全な方法(例:パスワード付きファイルの送付など)で当事者に提供されます。
    • 法的効力: 電子データで交付された正本・謄本は、従来の紙の正本・謄本と完全に同等の法的効力を持ちます。(出典:法務省「公証人法及び公証人手数料令の一部を改正する法律案の概要」(令和5年6月), p.4)

    もちろん、当事者の希望があれば、従来通り紙に印刷したものを交付してもらうことも可能です。

    公正証書のリモート手続き|具体的な流れと事前準備

    実際にリモートで公正証書の手続きを進める場合、どのような流れになるのでしょうか。現行の電子公証制度を参考に、一般的なステップをご紹介します。

    Step1:指定公証人役場への事前相談・予約

    まず、リモート手続きに対応している「指定公証人」が在籍する公証役場を探し、電話やメールで連絡します。作成したい文書の種類や内容を伝え、リモートでの手続きを希望する旨を相談し、予約を取ります。

    Step2:必要書類と電子署名環境の準備

    公証人との打ち合わせに基づき、必要書類を準備します。

    • 本人確認書類: 運転免許証、マイナンバーカードなど。
    • 印鑑登録証明書(必要な場合)。
    • 登記事項証明書(法人の場合)。
    • 公正証書の案文や関連資料。

    同時に、リモート手続きに不可欠な環境を整えます。

    • パソコン・インターネット環境: 安定した通信ができる環境。
    • Webカメラ・マイク: テレビ電話で使用します。
    • 電子証明書: マイナンバーカードや商業登記電子証明書など。
    • ICカードリーダーライタ: マイナンバーカード等を読み込むために必要です。
    • 電子署名ソフト: Adobe Acrobatなど、PDFに電子署名ができるソフトウェア。

    電子署名の仕組みや準備について詳しく知りたい方は、こちらのガイド記事をご覧ください。
    (内部リンク:/article/e-signature-guide)

    Step3:テレビ電話(オンライン会議)での本人確認と内容確認

    予約した日時に、公証人と当事者がWeb会議システム等(安全なオンライン会議ツール)に接続します。
    ※具体的に利用可能なウェブ会議システムについては、嘱託先の公証役場にご確認ください。

    1. 本人確認: 公証人は、当事者にWebカメラ越しに本人確認書類(運転免許証など)を提示してもらい、顔写真と照合して本人確認を行います。
    2. 内容確認: 公証人が公正証書の案文を画面共有などで示しながら、条項を一つずつ読み上げ、当事者の意思に間違いがないかを確認します。

    Step4:電子署名の実施と電子公正証書の受領

    内容確認後、当事者は公証人の指示に従い、電子文書に電子署名を行います。その後、公証人も職務上の電子署名を行い、電子公正証書が完成します。完成した電子公正証書(正本・謄本)は、電子メールなどの方法で交付されます。

    リモート化のメリット・デメリットと費用

    公正証書のリモート手続きは便利ですが、メリットとデメリットの両方を理解しておくことが重要です。

    メリット:移動不要、遠隔地の相手との契約が容易

    • 場所を選ばない: 公証役場への移動が不要になり、全国どこからでも手続きが可能です。
    • 時間とコストの節約: 移動時間や交通費を削減できます。
    • 遠隔地との契約: 当事者が離れた場所に住んでいても、同じ日時にオンラインで集まり、契約を締結できます。
    • 感染症対策: 非対面で手続きが完結するため、感染症のリスクを避けられます。

    デメリット:電子署名の準備、通信環境の確保が必要

    • 事前準備の手間: 電子証明書の取得やICカードリーダー、ソフトウェアの準備など、ITに関する一定の知識と手間が必要です。
    • 通信環境への依存: 安定したインターネット接続環境が不可欠です。通信トラブルで手続きが中断するリスクがあります。
    • PC操作スキル: パソコンやオンライン会議ツールの基本的な操作に慣れている必要があります。

    費用は変わる?対面手続きとの手数料比較

    公正証書の作成にかかる公証人手数料は、「公証人手数料令」という法令で定められています。2025年10月1日の法改正に伴い、この公証人手数料令も改定されました。具体的な手数料については、嘱託を予定している公証役場へ直接ご確認ください。

    比較項目リモート手続き(電子)対面手続き(書面)備考
    場所・移動不要(全国どこからでも可)公証役場への出頭が必要遠隔地の当事者間ではリモートの利便性が高い
    時間的拘束移動時間が不要移動時間+手続き時間スケジュール調整がしやすい
    事前準備負担大(電子証明書、PC、ソフト等)負担小(実印、印鑑証明書等)PC操作が苦手な場合はデメリットに
    費用(手数料)法令に基づく法令に基づく2025年10月に手数料令が改定。詳細は要確認
    費用(印紙税)不要(電子定款の場合)必要(4万円)定款認証では大きなメリット
    原本の形態電子データ(PDF等)2025年10月以降は電子が原則となる
    リモート手続きと対面手続きの比較

    公正証書の電子化に関するよくある質問(FAQ)

    Q. 電子署名にはマイナンバーカードが必須ですか?

    A. 個人の場合、マイナンバーカードを利用するのが最も一般的で便利です。
    マイナンバーカードに搭載されている「署名用電子証明書」が、公的個人認証サービスとして広く利用できます。法人の場合は、商業登記に基づく電子証明書などが利用されます。詳しくは事前に公証人にご確認ください。

    Q. パソコンが苦手でもリモート手続きは可能ですか?

    A. ある程度のPC操作スキルは必要となります。
    ソフトウェアのインストール、ICカードリーダーの接続、Web会議システムへの参加、ファイルの操作などが必要になるため、PC操作に不安がある場合は、対面での手続きを選択する方がスムーズかもしれません。ご家族や専門家のサポートを受けられる場合は、その限りではありません。

    Q. 指定公証人役場はどこで探せますか?

    A. 日本公証人連合会のウェブサイトで確認できます。
    電子公証制度に対応している「指定公証人」が在籍する公証役場の一覧が掲載されています。手続きを検討する際は、まず最寄りの指定公証人役場に問い合わせてみることをお勧めします。

    まとめ:手続き前には必ず公証役場への確認を

    本記事では、公正証書の電子化・リモート化について、現行制度と2025年10月からの変更点を中心に解説しました。

    • 現行制度(~2025年9月): 定款や私署証書の「認証」がリモートで可能。
    • 2025年10月1日以降: 上記に加え、金銭消費貸借契約などの公正証書の「作成」も原則リモート化。
    • 重要な注意点: 遺言公正証書と任意後見契約公正証書は、法改正後もリモート作成の対象外。
    • 準備: リモート手続きには、電子証明書(マイナンバーカード等)やPC環境の事前準備が不可欠。

    公正証書の電子化・リモート化は、手続きの利便性を大きく向上させるものですが、その対象範囲や要件は複雑です。特に法改正の過渡期にある現在、正確な情報を基に判断することが重要です。

    本記事で解説した内容は一般的な制度概要であり、個別の事案や嘱託先の公証役場の運用によって詳細は異なります。実際に手続きを進める際には、必ず事前に公証役場へ直接相談し、必要な書類や手順、費用について確認するようにしてください。

    【重要】本記事の情報更新について

    本記事は、2025年10月15日時点の公式情報に基づき作成されています。
    改正公証人法の施行初期のため、政省令や実務上の取扱いがさらに
    明確化される可能性があります。法改正や最新情報については、
    法務省や日本公証人連合会のウェブサイトを定期的にご確認ください。


    免責事項

    本記事は、公正証書に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。掲載内容には万全を期しておりますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。法改正等により内容が変更される可能性があります。具体的な手続きや法律判断については、必ず公証人、弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の利用によって生じたいかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いません。

    参考資料



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

    法律用語を検索する

    お困りのことがあれば
    お気軽にご相談ください