景品表示法の景品金額上限とは?3つの類型と違反リスクをわかりやすく解説
お役立ち記事一覧に戻る消費者の購買意欲を刺激するキャンペーンは、マーケティング活動において非常に重要です。しかし、「この景品の金額は景品表示法に違反しないだろうか?」「そもそも、うちの企画はどの規制の対象になるんだろう?」といった法的な不安を抱える担当者の方は少なくありません。良かれと思った企画が、意図せず法律違反となり企業の信頼を損なうリスクは絶対に避けたいものです。
景品表示法における景品規制は、金額の上限や計算方法が複雑で、特に「値引き」との違いや「取引価額」の考え方でつまずきがちです。この記事では、景品表示法が定める景品の金額上限について、3つの規制類型(一般懸賞・共同懸賞・総付景品)ごとに分かりやすく解説します。具体的なケース別の取引価額の計算方法から、規制の対象外となるオープン懸賞、違反した場合のリスクまで網羅的に説明します。最後まで読めば、法令を遵守した安全なキャンペーンを企画するための知識が身につきます。
キャンペーンの景品金額を考える前に、まず何が景品表示法上の「景品類」に該当するのかを正確に理解する必要があります。すべての「おまけ」や「特典」が規制対象となるわけではありません。
読者の疑問: キャンペーンで提供するものは何でも「景品」になるの?割引クーポンや無料サンプルも規制対象?
Contents
「景品類」に該当するための3つの要件

消費者庁のガイドラインによれば、「景品類」とは、次の3つの要件をすべて満たすものを指します。
- 顧客を誘引するための手段として
顧客を自社に惹きつけることを目的としていること。 - 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
商品の購入やサービスの利用、来店などを条件として提供されること。 - 物品、金銭その他の経済上の利益
物品や現金だけでなく、商品券、ポイント、電子マネー、優待券なども含まれる。
この3つに当てはまる場合、その提供物は「景品類」として景品表示法の規制対象となります。
【重要】「値引き」や「アフターサービス」は景品規制の対象外

景品規制を理解する上で最も重要なのが、「景品類」と「値引き」の違いです。
- 景品類: 取引に付随して提供される、本来の商品・サービスとは別の経済的利益。
- 値引き: 取引の対価(価格)そのものを直接減額すること。
例えば、「1,000円の商品購入で、100円相当のグッズをプレゼント」は景品類にあたります。一方、「1,000円の商品を、今だけ900円で販売」は値引きです。
値引きは景品類ではないため、景品表示法の景品金額の上限規制は適用されません。同様に、商品の無料修理や設置サービスといったアフターサービスも、取引の内容そのものとみなされ、景品類には該当しないのが原則です。
気づき: つまり、提供する特典が「取引とは別の利益」なのか、「取引価格そのものの割引」なのかで、規制の対象かどうかが決まるんですね。この区別がコンプライアンスの第一歩になります。
試供品など「正常な商慣習」と認められるものも対象外
商品の購入とは関係なく配布される試供品(サンプル)や、入場無料のイベントで配られる記念品などは、取引への付随性がない、あるいは正常な商慣習の範囲内と判断され、景品規制の対象外となる場合があります。
関連して、広告の表現方法については、景品表示法の「表示規制」が別途定められています。
(内部リンク:景品表示法の「表示規制」(有利誤認表示)に関する記事)
あなたのキャンペーンはどれ?景品規制の3つの類型と上限金額
景品類に該当する場合、その提供方法によって「一般懸賞」「共同懸賞」「総付景品(そうづけけいひん)」の3つのいずれかに分類され、それぞれ異なる金額の上限が定められています。
自社のキャンペーンがどの類型にあたるかを正しく判断することが、上限金額を守るための鍵となります。
以下に3つの類型の定義、具体例、上限金額をまとめました。
| 景品の種類 | 概要 | 景品最高額 | 景品総額 |
|---|---|---|---|
| ① 一般懸賞 (クローズド懸賞) | 単独の事業者が、商品購入者や来店者を対象に、抽選やクイズの正誤などで景品を提供する場合。 | 取引価額5,000円未満: 取引価額の20倍まで 取引価額5,000円以上: 10万円まで | キャンペーン期間中の 売上予定総額の2%以内 |
| ② 共同懸賞 (クローズド懸賞) | 商店街やショッピングモールなど、複数の事業者が共同して景品を提供する場合。 | 取引価額にかかわらず 30万円まで | キャンペーン期間中の 売上予定総額の3%以内 |
| ③ 総付景品 (ベタ付け) | 商品購入者や来店者など、条件を満たした人全員にもれなく景品を提供する場合。 | 取引価額1,000円未満: 200円まで 取引価額1,000円以上: 取引価額の10分の2(20%)まで | 総額の規制はなし |
① 一般懸賞|単独の事業者による抽選キャンペーンなど
「商品Aを購入した方の中から抽選で100名様に、最新家電をプレゼント!」といった、単独の企業が行う抽選キャンペーンが典型例です。取引価額によって上限額が変動する点に注意が必要です。
② 共同懸賞|商店街やショッピングモールなど複数事業者による懸賞
「〇〇商店街の歳末福引セール」のように、複数の事業者が共同で実施する懸賞です。多くの事業者が関わることで消費者への影響が大きいことから、一般懸賞よりも高い景品上限額が設定されています。
③ 総付景品(ベタ付け)|購入者全員プレゼントなど
「このドリンクを1本お買い上げの方全員に、オリジナルキーホルダーをプレゼント」といった、いわゆる「ベタ付け景品」がこれにあたります。偶然性や優劣によらず、条件を満たせば必ずもらえるのが特徴です。
【ケース別】景品上限額の算定基礎「取引価額」の計算方法
景品上限額を計算する上で、基準となるのが「取引価額」です。この計算方法を間違えると、上限額も誤ってしまうため、慎重に確認する必要があります。
原則:顧客が実際に支払う「消費税込み」の金額
取引価額とは、景品を提供するために顧客が支払う必要のある、消費税込みの金額を指します。
ケース1:複数商品を購入した場合
複数の商品を購入することが懸賞の応募条件である場合、それらの合計金額が取引価額となります。
| (記載例) 1,500円の商品Aと2,000円の商品Bの同時購入で応募できる一般懸賞の場合、取引価額は3,500円となります。 この場合、景品最高額は「5,000円未満」のルールが適用され、3,500円 × 20倍 = 70,000円となります。 |
ケース2:月額課金サービスの場合
月額制のサブスクリプションサービスなどが対象の場合、景品類告示の運用基準では、原則として1ヶ月分の料金が取引価額と解釈されます。
| (記載例) 月額5,500円のサービスに新規契約した人向けの一般懸賞の場合、取引価額は5,500円です。 この場合、景品最高額は「5,000円以上」のルールが適用され、上限は10万円となります。 |
ケース3:来店者プレゼントなど購入を条件としない場合
商品の購入を条件とせず、来店するだけで応募できる懸賞など、取引価額を算定できない場合があります。この場合、景品類告示の運用基準により、取引価額は一律100円とみなして計算します。
| (記載例) 来店者の中から抽選で景品が当たる一般懸賞の場合、取引価額は100円とみなされます。 この場合、景品最高額は 100円 × 20倍 = 2,000円となります。 |
景品規制の対象外となる「オープン懸賞」とは?
ここまで解説してきた景品規制には、重要な例外があります。それが「オープン懸賞」です。
オープン懸賞の定義と具体例(取引への付随性がない)

オープン懸賞とは、商品の購入やサービスの利用を条件とせず、新聞、雑誌、ウェブサイトなどでの告知に応募すれば、誰でも参加できる懸賞のことです。
【オープン懸賞の具体例】
- ウェブサイトのフォームから誰でも応募できるプレゼントキャンペーン
- X(旧Twitter)で公式アカウントをフォロー&リポストするだけで参加できる懸賞
- はがきでクイズに答えて応募する懸賞
これらは取引に付随しないため、景品表示法の景品規制の対象外となり、景品の金額に法的な上限はありません。
「クローズド懸賞」との違いと注意点
オープン懸賞に対して、これまで見てきた「一般懸賞」や「共同懸賞」のように、商品購入や来店を応募条件とする懸賞を総称して「クローズド懸賞」と呼びます。
| 種類 | 応募条件 | 景品表示法の規制 |
|---|---|---|
| オープン懸賞 | 取引を条件としない(誰でも応募可) | 対象外 |
| クローズド懸賞 | 取引を条件とする(購入者・来店者限定など) | 対象 |
キャンペーンを企画する際は、応募条件が「取引」を伴うものか否かを明確にし、オープン懸賞なのかクローズド懸賞なのかを正しく判断することが極めて重要です。
もし景品表示法に違反したら?措置命令と課徴金のリスク
景品表示法の金額規制に違反した場合、企業は大きなリスクを負うことになります。主なペナルティは「措置命令」と「課徴金納付命令」の2つです。
行政処分としての「措置命令」とは

消費者庁は、景品表示法に違反した事業者に対し、違反行為の差し止めや再発防止策の実施などを命じる「措置命令」を行うことができます(景品表示法第7条)。
措置命令が出されると、その事実が公表されるため、企業のブランドイメージや社会的信用が大きく傷つく可能性があります。また、命令に従わない場合は、刑事罰(2年以下の懲役または300万円以下の罰金など)が科されることもあります。
金銭的制裁としての「課徴金納付命令」とは
景品規制違反の中でも、特に消費者に与える影響が大きいと判断される悪質なケースなどでは、金銭的な制裁として「課徴金納付命令」が出されることがあります(景品表示法第8条)。
課徴金の額は、原則として、違反行為が行われた期間(最大で過去3年間)における対象商品・サービスの売上額の3%に相当する金額です。事業規模によっては、課徴金額が数千万円から数億円に上るケースもあり、経営に深刻なダメージを与える可能性があります。
コンプライアンス体制を整え、法律を遵守することは、こうしたリスクを回避するために不可欠です。
(内部リンク:企業のコンプライアンス体制構築に関する記事)
まとめ:景品表示法の金額規制で押さえるべき3つのポイント
今回は、景品表示法の景品金額規制について解説しました。複雑な制度ですが、安全なキャンペーンを企画するために、以下の3つのポイントを必ず押さえておきましょう。
- 提供するのは「景品」か「値引き」かを見極める。
キャンペーンの特典が、取引とは別の経済的利益(景品)なのか、価格そのものの割引(値引き)なのかを最初に判断しましょう。値引きであれば景品規制の対象外です。 - キャンペーンを3類型(一般懸賞・共同懸賞・総付景品)に分類する。
景品に該当する場合、抽選など偶然性があるか(懸賞)、もれなく全員か(総付景品)、実施主体は単独か複数か(一般/共同)で分類し、どの規制が適用されるかを確認します。 - 「取引価額」を正しく計算し、上限金額を遵守する。
各類型で定められた上限額の基準となる「取引価額」を、ケースに応じて正しく算定します。特に、一般懸賞と総付景品では取引価額によって上限が変わるため注意が必要です。
景品表示法は、公正な競争環境と消費者の利益を守るための重要な法律です。ルールを正しく理解し、消費者に喜ばれる魅力的なキャンペーンを企画しましょう。
景品表示法に関するよくある質問(FAQ)
Q. 電子マネーやポイントの付与は「景品」にあたりますか?
A. はい、あたります。
景品表示法上の「景品類」は、物品や現金に限らず、「金銭その他の経済上の利益」を広く含みます。電子マネーやポイント、商品券、割引券なども経済上の利益とみなされ、その市場価値(例:1ポイント=1円)を基準に景品額が計算され、規制の対象となります。
Q. 景品総額の「売上予定総額」はどう計算すればよいですか?
A. 合理的な方法で算出する必要があります。
一般懸賞や共同懸賞で定められている景品総額の上限(売上予定総額の2%または3%)を計算する際の「売上予定総額」は、「キャンペーン対象商品の単価 × キャンペーン期間中の販売予定数量」といった客観的で合理的な根拠に基づいて算出する必要があります。過去の実績などを参考に、実態とかけ離れない数値を設定することが求められます。
Q. 違反してしまった場合、どこに相談すればよいですか?
A. 消費者庁や弁護士などの専門家への相談が考えられます。
景品表示法に違反した、あるいは違反の可能性があると気づいた場合、まずは事実関係を正確に把握することが重要です。その上で、消費者庁の表示対策課や、所在地の都道府県の担当部署に相談する方法があります。また、具体的な対応方針や法的リスクについてのアドバイスが必要な場合は、景品表示法に詳しい弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。なお、景品表示法第36条に基づき、命令違反に対しては2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
免責事項
本記事は、2025年10月27日時点の法令や情報に基づき、景品表示法に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の事案に対する法的な助言や見解を表明するものではありません。景品表示法は関連する告示等が改正される場合があります。実際のキャンペーン企画にあたっては、必ず消費者庁の公式ウェブサイト等で最新の法令やガイドラインをご確認の上、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
参考資料
- 消費者庁「景品規制の概要」
- 消費者庁「「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準」 (令和3年3月公表版)
- 消費者庁「景品表示法における課徴金制度の概要」
- e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)」

植野洋平 |弁護士(第二東京弁護士会)
検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。