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  • 特定保健用食品・機能性表示食品・一般食品の広告規制|3つの違いと2025年改正徹底解説

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    食品開発やマーケティングを担当する中で、「特定保健用食品(トクホ)」「機能性表示食品」「一般食品」の違いや、それぞれの広告でどこまで表現して良いのか、悩んだことはありませんか。これらの食品カテゴリは、根拠となる法律や表示できる内容が大きく異なり、誤った認識は景品表示法や薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の違反に直結しかねません。特に2024年9月の制度改正(一部経過措置として2025年4月施行分を含む)により、機能性表示食品の規制はさらに厳格化されました。

    この記事では、食品事業者が知っておくべき3つの食品カテゴリの定義と、それぞれの広告表示に関する規制を徹底解説します。特定保健用食品の許可制度、機能性表示食品の届出制、そして一般食品で許される表現の範囲まで、公的資料を基にわかりやすく整理します。最後まで読めば、法令違反のリスクを回避し、自社製品の価値を正しく伝えるための知識が身につきます。

    特定保健用食品・機能性表示食品・一般食品の概要と広告表示の基本ルール

    食品の機能性を消費者に伝えるためには、国の定めたルールを正しく理解することが不可欠です。まずは「特定保健用食品」「機能性表示食品」「一般食品」という3つのカテゴリの基本的な違いと、広告表示全体に共通する法律の枠組みを把握しましょう。

    💬 読者の疑問: 3つも種類があって、どれがどう違うのか複雑… 広告で何を言っていいのか、基準がよくわからない。

    各制度の定義と目的

    3つの食品カテゴリは、国の関与の度合いと、表示できる機能性の内容によって明確に区別されます。

    • 特定保健用食品(トクホ):
      • 定義: 健康の維持増進に役立つことが科学的に証明され、消費者庁長官の「許可」を受けた食品です。食品表示法第4条(最終改正:令和3年)に基づき、消費者庁長官による個別許可制です。
      • 目的: 個別に審査された特定の保健機能(例:「おなかの調子を整える」)を製品に表示し、消費者の健康維持を助けることを目的とします。
    • 機能性表示食品:
      • 定義: 事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を消費者庁に「届け出た」食品です。食品表示法第4条(最終改正:令和3年)に基づき、消費者庁長官への届出制で、国による個別の審査はありません。
      • 目的: 事業者が自らの責任で科学的根拠を評価し、健康の維持及び増進に役立つ機能性を表示することで、消費者が製品を選びやすくすることを目的とします。
    • 一般食品:
      • 定義: 上記の2つに含まれない、すべての食品(生鮮食品、加工食品など)です。
      • 目的: 主に栄養補給を目的とします。「健康食品」や「サプリメント」と称されるものも、届出や許可がなければ一般食品に分類されます。

    この違いを理解することが、適切な広告表示の第一歩です。国の「許可」があるトクホと、事業者の「届出」である機能性表示食品では、信頼性の裏付けが全く異なるのです。

    広告表示の全体像(薬機法・景品表示法の適用)

    どの食品カテゴリであっても、広告やパッケージの表示は複数の法律によって規制されています。事業者はこれらの法律を横断的に遵守する必要があります。

    • 食品表示法第4条(最終改正:令和3年): 食品の表示に関する包括的なルールを定めています。栄養成分表示やアレルギー表示のほか、特定保健用食品や機能性表示食品の制度もこの法律に基づいています。
    • 薬機法: 医薬品と誤認されるような効果・効能の表示を厳しく禁止しています(薬機法第66条)。「病気が治る」「症状が改善する」といった表現は、たとえトクホであっても認められません。
    • 景品表示法: 商品やサービスの品質、内容、価格などについて、事実と異なる表示(不当表示)を禁止しています(景品表示法第5条)。科学的根拠なく「飲むだけで痩せる」などと謳うことは、優良誤認表示として処分の対象となります。
    • 健康増進法第27条: 栄養成分について「カルシウム豊富」などの強調表示(栄養強調表示)をする際の基準などを定めています。

    これらの法律は相互に関連しており、一つの表示が複数の法律に抵触する可能性もあります。そのため、広告を作成する際は、多角的な視点でのコンプライアンスチェックが不可欠です。

    特定保健用食品(トクホ)の広告表示規制

    特定保健用食品(トクホ)は、国の厳格な審査をクリアした、いわば「健康機能表示のエリート」です。その分、許可取得のハードルは高く、表示できる内容も厳密に定められています。

    許可制度の詳細(申請要件・審査基準)

    トクホとして製品を販売するには、事業者が消費者庁長官に対して個別許可を申請し、承認を得る必要があります。食品表示法第4条に基づき、消費者庁長官の個別許可制です。

    • 申請要件:
      1. 有効性の証明: 表示したい保健機能について、ヒトを対象とした臨床試験(ヒト試験)で科学的根拠を示す必要があります。
      2. 安全性の証明: 食品としての安全性を確認する試験データなどを提出し、国による審査を受けます。
      3. 適切な関与成分: 保健機能をもたらす成分が明確であり、製品中の含有量を分析できる必要があります。
    • 審査基準: 提出された科学的根拠や安全性データが、消費者委員会の審査基準を満たしているか、専門家によって厳しく評価されます。
    • 許可期間: 許可の有効期間は原則として5年間であり(出典:消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_system/tokutei_yogo_shokuhin/)、継続して販売する場合は更新手続きが必要です。

    💡 気づき: 国の厳しい審査をクリアしているからこそ、特定の効果を謳えるんですね。その分、申請のハードルは高そうです。

    許可可能な表示例と制限

    国の許可を得たトクホは、許可された範囲内で具体的な保健機能を表示できます。製品パッケージには、信頼の証である「トクホマーク」を表示することが義務付けられています。

    • 許可表示の例:
      • 「食後の血糖値が気になり始めた方に」
      • 「血圧が高めの方に適した食品です」
      • 「コレステロールの吸収を抑え、血中コレステロールを低下させる働きがあります」
      • 「おなかの調子を整える食品です」

    これらの表示は、消費者庁が公開する許可品目リストで確認できます(出典:消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_system/tokutei_yogo_shokuhin/approval_list/)。

    • 表示の制限:
      • 許可範囲の厳守: 許可された文言を逸脱した表現は認められません。例えば、「高血圧を治療する」のような医薬品的な表現は厳禁です。
      • 疾病の治療・予防の禁止: トクホはあくまで健康な人や境界域の人を対象としており、病気の治療や予防を目的とするものではありません。

    疾病リスク低減表示(DRR: Disease Risk Reduction)の許可対象

    重要な注意: 疾病リスク低減表示(例:「この食品は○○を豊富に含みます。適切な量の○○を含む健康な食事は、□□(疾病)に係るリスクを低減する可能性があります。」)は、特定保健用食品(トクホ)のみで表示が許可されています。

    機能性表示食品では、疾病リスク低減表示は原則として表示できません。

    トクホの広告は、国の許可という強力な裏付けを持つ一方で、その表現は許可された文言に厳しく縛られているのが特徴です。

    機能性表示食品の広告表示規制

    機能性表示食品は、2015年に始まった比較的新しい制度です。事業者の責任において機能性を表示できる手軽さから市場が拡大しましたが、それに伴いルールの厳格化も進んでいます。

    届出制度の流れと科学的根拠の要件

    機能性表示食品は、トクホのような国の「許可」ではなく、事業者による「届出」で販売が可能になります。食品表示法第4条に基づき、消費者庁長官への届出制です。

    • 届出制度の流れ:
      1. 科学的根拠の準備: 表示したい機能性に関する科学的根拠を、事業者が自ら収集・評価します。
      2. 安全性情報の評価: 食品としての安全性を評価し、関連情報をまとめます。
      3. 消費者庁への届出: 販売開始予定日の60営業日前(新規関与成分の場合は120営業日前)までに、科学的根拠や安全性情報などを消費者庁に届け出ます(出典:消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/。消費者庁長官が時間を要すると認める場合に適用されます)。
      4. 情報公開: 届け出られた情報は消費者庁のウェブサイトで公開され、誰でも閲覧できるようになります。
    • 科学的根拠の要件:
      • 最終製品での臨床試験: 製品そのものを使ってヒト試験を実施する。
      • システマティックレビュー(研究レビュー): 機能性に関わる成分について、関連する研究論文を網羅的に収集・評価する。

    どちらの方法でも、事業者自身の責任で根拠の質を担保する必要があります。国がその内容を個別に審査・保証するわけではない点が、トクホとの決定的な違いです。

    2024年改正のポイント(安全性厳格化・注意喚起文言)

    近年の紅麹関連製品の問題(2024年春に健康被害が相次いで報告)を受け、2024年9月から機能性表示食品制度が改正され(一部経過措置として2025年4月施行分を含む)、安全性の確保がより一層厳格化されました(出典:消費者庁「機能性表示食品の届出等に関する手引」2025年4月版)。

    • 改正の主なポイント:
      • 健康被害情報の報告義務化: 事業者が製造・販売する機能性表示食品について、医師から健康被害の報告を受けた場合、速やかに消費者庁へ報告することが義務付けられました。
      • GMP等に基づく製造管理: 機能性表示食品の天然抽出物等を原材料とする錠剤・カプセル剤等について、GMP基準に基づく製造・品質管理が2024年9月より義務付けられています。経過措置期間は2026年8月31日までとされており、これ以降は完全適用となります。
      • 科学的根拠の質の向上: 届出に使われるシステマティックレビューの質に関する要件が引き上げられました。

    また、広告やパッケージには、以下の注意喚起表示が引き続き義務付けられています。

    (記載例)
    本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。

    ※本表は画像化して使用推奨。詳細は消費者庁ウェブサイト参照。

    この改正は、事業者の責任をこれまで以上に重くするものです。届出後も継続的に安全性や科学的根拠の情報を収集し、管理する体制が不可欠となります。

    一般食品の広告表示規制と禁止事項

    特定保健用食品や機能性表示食品でない、その他のすべての食品を「一般食品」と呼びます。一般食品の広告では、健康に関する効果を直接的に謳うことは厳しく制限されています。

    栄養強調表示の範囲

    一般食品でも、健康増進法第27条や食品表示法第7条・第8条(最終改正:令和3年)で定められた基準を満たせば、特定の栄養成分に関する表示(栄養強調表示)が可能です。

    • 「含む」「豊富」「多い」などの高強調表示: 国が定めた基準値以上に栄養成分が含まれている場合に表示できます。(例:「カルシウム豊富」「食物繊維たっぷり」)
    • 「含まない」「ゼロ」「無」などの無強調表示: 国が定めた基準値未満である場合に表示できます。(例:「糖類ゼロ」「ノンカロリー」)
    • 「控えた」「カット」「オフ」などの低強調表示: 従来品などと比較して、一定割合以上栄養成分が低減されている場合に表示できます。(例:「塩分30%カット」)

    これらの表示は、あくまで客観的な栄養成分量に基づく事実の表示であり、特定の健康効果を示すものではありません。

    健康効果表現のNG事例と罰則

    一般食品において、医薬品と誤認されるような健康効果を標榜することは、薬機法や景品表示法に違反する可能性があります。

    一般食品の広告で「病気が治る」「痩せる」といった表現は、たとえ事実であったとしても法律違反と見なされる可能性があります。

    以下は、行政処分の対象となりうるNG表現の例です。

    • 疾病の治療・予防を示唆する表現:
      • 「高血圧、糖尿病の方に」
      • 「花粉症の症状を緩和します」
      • 「ガン予防に効果的」
    • 身体の組織機能の増強を示唆する表現:
      • 「疲労回復」「免疫力アップ」
      • 「記憶力・集中力を高める」
    • 特定の身体部位への効果を示唆する表現:
      • 「肌のシワを改善する」
      • 「関節の痛みが和らぐ」
    • ダイエット効果を保証する表現:
      • 「飲むだけで1ヶ月でマイナス10kg!」

    これらの表現は、消費者庁や都道府県から措置命令や課徴金納付命令を受けるリスクがあります(景品表示法)。また、薬機法違反として刑事罰の対象となることもあります。

    3つの食品カテゴリの比較と実務対応

    これまで解説してきた3つのカテゴリの違いを整理し、事業者が実務でどのように対応すべきかを考えていきましょう。

    表示許可・届出の違い(マトリクス)

    特定保健用食品(トクホ)、機能性表示食品、一般食品の違いを一覧表にまとめました。自社製品がどのカテゴリに当てはまるか、またどのカテゴリを目指すべきかを検討する際の参考にしてください。

    項目特定保健用食品(トクホ)機能性表示食品一般食品
    国の関与個別審査・許可届出(審査なし)なし
    根拠制度食品表示法食品表示法
    科学的根拠ヒト試験が必須ヒト試験または研究レビュー不要
    表示できる内容許可された特定の保健機能届け出た機能性栄養成分の量に関する表示のみ
    表示例「血圧が高めの方に」「目のピント調節機能を助ける」「カルシウム豊富」
    マークトクホマークなし(注意喚起表示が必須)なし
    事業者側のコスト・時間高い(数年単位)中程度(数ヶ月〜)低い
    事業者リスク許可範囲外の表示による違反届出不備や健康被害発生時の販売停止・行政処分医薬品的な効果・効能の表示による薬機法・景品表示法違反
    表:食品カテゴリ別 制度比較

    ※本表は画像化して使用推奨。詳細は消費者庁ウェブサイト参照。

    違反リスクと回避策(行政処分事例)

    広告表示のルールを軽視すると、厳しい行政処分につながる可能性があります。

    • 景品表示法違反: 消費者庁から措置命令が出され、違反の事実が公表されます。場合によっては、売上額に応じた課徴金の納付を命じられます。例えば、「飲むだけで痩せる」と謳ったサプリメントに対し、根拠がないとして措置命令が出された事例が多数あります。
    • 薬機法違反: 医薬品的な効能効果を広告した場合、販売停止や製品回収に加え、懲役や罰金といった刑事罰の対象となる可能性があります。

    これらのリスクを回避するためには、以下の対策が不可欠です。

    1. カテゴリの正確な理解: 自社製品が3つのうちどのカテゴリに属するかを正しく認識する。
    2. 根拠の確保: 機能性を表示する場合は、その根拠となる科学的データを常に準備・更新しておく。
    3. 表現のダブルチェック: 広告やパッケージの文言が、薬機法や景品表示法のNG表現に該当しないか、法務部門や専門家と連携して厳しくチェックする。
    4. 公的ガイドラインの遵守: 消費者庁などが公開しているガイドラインを定期的に確認し、最新のルールを把握する。

    事業者が守るべきガイドラインと最新改正対応

    法令遵守を徹底し、消費者の信頼を得るためには、公的な情報源を常に確認し、最新の規制動向を把握し続ける姿勢が重要です。

    消費者庁HPの活用法

    食品の表示や広告に関する最も信頼できる情報源は、消費者庁のウェブサイトです。事業者は以下のページを定期的にチェックすることをおすすめします。

    • 食品表示企画: 食品表示法全般に関する情報やQ&Aが掲載されています。
    • 機能性表示食品に関する情報: 制度の概要、届出のための手引、届出情報データベースなどが集約されています。自社や競合の届出状況を確認できるデータベースは特に重要です。
    • 景品表示法関連: 景品表示法の解説や、過去の違反事例、ガイドラインなどが公開されています。どのような表現が問題となるかを学ぶ上で非常に参考になります。

    自治体条例の留意点と全国適用限界

    食品の広告表示に関する規制は、国の法律だけでなく、都道府県や市町村が定める条例によっても上乗せされることがあります。特に、健康食品の広告に関する独自のガイドラインを設けている自治体も存在します。

    例えば、東京都では「健康食品」の広告について、消費者に誤解を与えないよう詳細な監視・指導を行っています。地域によっては自治体の条例による個別の規制が存在するため、全国展開する商品であっても、販売する地域の条例やガイドラインを個別に確認することが重要です。国の法律をクリアしていても、特定の地域では指導の対象となる可能性があることを念頭に置いておきましょう。

    適切な広告表示は、単なる法令遵守にとどまらず、消費者との信頼関係を築くための基盤です。この記事で得た知識をもとに、自社の製品価値を正しく、誠実に伝えていきましょう。


    免責事項

    本記事は、特定保健用食品、機能性表示食品、一般食品の広告表示に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の事案に対する法的な助言・見解を示すものではありません。食品の表示や広告に関する具体的な判断にあたっては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、本記事の内容は執筆時点の法令等に基づいております。法令改正や個別の契約条項が最新の情報として最優先されますので、必ず最新の一次情報をご確認ください。

    参考資料

    • 消費者庁 「機能性表示食品の届出等に関する手引」(2025年)
    • e-Gov法令検索 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」
    • e-Gov法令検索 「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」
    • e-Gov法令検索 「食品表示法」
    • e-Gov法令検索 「健康増進法」



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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