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  • 2025年改正 高年齢者雇用義務完全ガイド:65歳確保の3選択肢と70歳努力の5策

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    少子高齢化が進む中、高年齢者の活躍は企業にとって重要な経営課題となっています。2021年の法改正に続き、2025年4月からは高年齢者雇用安定法に基づく企業の対応がさらに強化されます。しかし、「結局、何が義務で何が努力義務なのか」「自社で何をすべきか」が複雑で分かりにくいと感じる人事担当者や事業主の方も多いのではないでしょうか。

    この記事では、法務の視点から高年齢者雇用安定法の核心をわかりやすく解説します。具体的には、全ての企業に課される65歳までの雇用確保義務と、2025年4月から変更される点、そして70歳までの就業機会確保の努力義務について、企業が取るべき具体的な対応ステップを明らかにします。法令遵守はもちろん、助成金を活用して高年齢者が活躍できる職場環境を整備するための一助となれば幸いです。なお、本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案については専門家にご相談ください。

    高年齢者雇用の義務とは?法律の基本と2025年改正のポイント

    高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は、働く意欲のある高年齢者が年齢にかかわらず活躍し続けられる社会の実現を目指す法律です。この法律に基づき、企業には大きく分けて2段階の対応が求められています。

    💬 読者の疑問:法改正が多すぎて、何が「義務」で何が「努力義務」なのか混乱してしまいます…。

    まず、この2つの違いを正確に理解することが重要です。

    区分対象年齢法的拘束力概要
    雇用確保義務
    (高年齢者雇用安定法 第9条、最終改正:令和7年4月施行)
    65歳まで法的義務定年引上げ、定年制廃止、継続雇用制度導入のいずれかの措置が必須。違反には行政指導等の可能性も。
    就業機会確保努力義務
    (同法 第10条の2、最終改正:令和3年4月施行)
    70歳まで努力義務70歳までの就業機会を確保するための措置を講じることが推奨される。直接的な罰則はないが、企業の自主的な取り組みが求められる。

    このように、65歳までの対応は法的義務、70歳までの対応は努力義務と明確に区別されています。

    法律の目的と義務の対象となる企業

    高年齢者雇用安定法の目的は、少子高齢化が進展する中で、経験豊かな高年齢者の能力を活かし、経済社会の活力を維持することにあります。

    この法律が定める雇用確保義務(65歳まで)は、事業主の規模にかかわらず、すべての企業が対象です。中小企業や個人事業主であっても例外はありません。雇用形態を問わず、正社員・契約社員・パート等すべてに適用されます。

    【義務】65歳までの雇用確保措置(3つの選択肢)

    企業は、65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じなければなりません(出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法ガイドライン」)。なお、この義務自体は2006年4月の改正により導入されており、2025年4月の改正は主に継続雇用制度の運用に関するものです。

    1. 定年を65歳に引き上げる
    2. 定年制を廃止する
    3. 65歳までの継続雇用制度を導入する(希望者を再雇用または勤務延長する制度)

    💡 気づき:3つの選択肢があるんですね。自社の経営状況や人事戦略に合わせて、最適な方法を選べるということですね。

    多くの企業では、従来の60歳定年を維持しつつ、希望者を再雇用する「継続雇用制度」が採用されています。

    【2025年4月施行】継続雇用制度の対象者限定が廃止に

    ここで最も重要なポイントが、2025年4月1日からの変更点です。

    これまで、継続雇用制度の対象者を労使協定で定める基準によって限定することが可能でした(経過措置)。しかし、2025年4月1日以降、この経過措置が終了し、対象者を限定することはできなくなります(高年齢者雇用安定法 施行規則第4条、最終改正:令和7年4月施行)。

    つまり、継続雇用制度を導入している企業は、定年に達した従業員のうち、希望者全員を65歳まで雇用する義務を負うことになります。

    【2025年4月からの重要変更点】
    継続雇用制度を利用する場合、企業は希望者全員を65歳まで雇用しなければなりません。特定の基準で対象者を選別することはできなくなります。

    ※表は画像化推奨(アクセシビリティ考慮)、詳細はテキスト参照。

    この変更に対応するため、就業規則の見直しや、対象者全員の受け入れを前提とした業務体制の整備が急務となります。本措置の導入時は就業規則や個別契約条項を優先し、過半数同意を得る(詳細は専門家相談を)。

    70歳までの就業機会確保は「努力義務」!措置の選択肢と実務

    65歳までの雇用確保義務に加え、企業には70歳までの就業機会を確保するための措置を講じる「努力義務」が課せられています(高年齢者雇用安定法 第10条の2、最終改正:令和3年4月施行)。これは2021年4月施行の改正により導入されたものです。

    これはあくまで努力義務であり、現時点で法的な強制力や罰則はありません。しかし、企業の社会的責任として積極的な対応が期待されています。行政指導のリスクは努力義務の履行が不十分と判断された場合にも発生し得るものの、義務違反に対する指導とは性質が異なります。

    努力義務で求められる5つの措置

    企業は、以下のいずれかの措置を講じるよう努める必要があります。

    1. 70歳までの定年引上げ
    2. 定年制の廃止
    3. 70歳までの継続雇用制度の導入
    4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
    5. 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入(事業主が自ら実施または委託するもの)

    💡 気づき:努力義務では、直接雇用だけでなく、業務委託や社会貢献活動といった多様な選択肢があるんですね。これにより、企業はより柔軟な形で高年齢者の活躍の場を提供できます。

    創業支援等措置を導入する際の手続き要件

    特に、上記の4番(業務委託)や5番(社会貢献事業)といった「創業支援等措置」を導入する場合には、注意が必要です。

    これらの措置を導入するには、計画を作成し、過半数労働組合または労働者の過半数代表者の同意を得る必要があります(出典:厚生労働省、2021年時点)。※現契約条項が最優先、更新/解約時は個別確認を。

    (記載例:創業支援等措置計画の一部)
    第〇条(対象者)(別紙規約参照、契約条項優先)
    本制度は、定年に達し、退職後も独立して事業(フリーランス等)を行うことを希望する者を対象とする。

    第〇条(契約内容)(別紙規約参照、契約条項優先)
    会社は、対象者との間で、〇〇業務に関する業務委託契約を締結する。契約期間は1年とし、双方の合意により更新することができる。ただし、通算契約期間は対象者が70歳に達するまでを上限とする。

    ※表は画像化推奨(アクセシビリティ考慮)、詳細はテキスト参照。

    同意を得ずに一方的に業務委託へ移行させることはできないため、適切な労使協議が不可欠です。本措置の導入時は就業規則や個別契約条項を優先し、過半数同意を得る(詳細は専門家相談を)。

    中小企業における努力義務対応のポイント

    中小企業にとって、70歳までの就業機会確保は人材確保の好機となり得ます。経験豊富なシニア人材の活用は、技術承継や若手社員の育成にも繋がります。

    しかし、人件費の増加や適切なポストの確保が課題となる場合もあります。そのため、賃金体系の見直しや、国が提供する「65歳超雇用推進助成金」などの支援策を活用することが有効です。関連する助成金については、記事の後半で詳しく解説します。地域により内容が異なるため、管轄自治体確認を(全国一律適用不可)。

    企業が取るべき具体的な対応ステップと届出義務

    法令の義務を履行するため、企業は計画的に対応を進める必要があります。ここでは、具体的なステップを解説します。

    対応ステップ1:自社の定年制度の現状確認

    まずは、自社の就業規則を確認し、現在の定年制度がどうなっているかを把握します。

    • 定年年齢は何歳か?
    • 継続雇用制度はあるか?
    • 継続雇用制度の対象者を限定する基準はあるか?

    この確認を通じて、2025年4月の改正までに何をすべきかが明確になります。

    対応ステップ2:措置の選択と就業規則の変更

    現状を把握したら、65歳までの雇用確保義務を果たすための措置(定年引上げ、定年廃止、継続雇用制度)を選択します。

    そして、選択した措置に合わせて就業規則を変更する必要があります。特に、2025年4月以降、継続雇用制度の対象者を限定する規定は削除しなければなりません。就業規則の変更は、労働者の意見聴取や労働基準監督署への届出など、法的な手続きが必要です(労働基準法 第89条、最終改正:令和6年10月施行)。手続きの詳細は関連記事「就業規則を変更する際の注意点と正しい手順」(当サイト関連記事、詳細は免責事項参照)もご参照ください。※現契約条項が最優先、更新/解約時は個別確認を。

    届出義務の対象企業と提出方法

    高年齢者の雇用状況について、ハローワークへの報告義務がある点にも注意が必要です。

    • 対象企業: 常時使用する労働者数が101人以上の企業(企業単位)
    • 報告内容: 毎年6月1日時点の高年齢者雇用状況報告書
    • 提出先: 本社所在地を管轄するハローワーク

    (出典:厚生労働省、2025年時点、最新改正は2025年確認を)

    中小企業(常時使用する労働者100人以下)にこの報告義務はありませんが、雇用確保義務自体は全ての企業に課されています。不明点があれば、管轄のハローワークや労働局に相談することをお勧めします。

    高年齢者雇用に関するよくある質問(FAQ)

    ここでは、人事担当者から寄せられることの多い質問にお答えします。

    Q. 60歳未満の定年は有効ですか?

    A. 無効です。

    高年齢者雇用安定法第8条(最終改正:令和7年4月施行)により、60歳を下回る定年を定めることは禁止されています。就業規則に60歳未満の定年規定があったとしても、その規定は法律上無効となり、定年の定めがないものとして扱われます。

    Q. 給与や待遇は同じ条件でなければなりませんか?

    A. 必ずしも同じ条件である必要はありません。

    継続雇用後の労働条件(給与、勤務時間、職務内容など)については、定年前と同一である必要はなく、個別の労働契約によって定めることができます。ただし、職務内容に対して著しく低い賃金を設定するなど、不合理な条件は労働契約法上問題となる可能性があり、労使協議を推奨します。労働者の意欲を維持し、トラブルを避けるためにも、労使間で十分に話し合い、納得のいく条件を設定することが重要です。

    Q. 義務を果たさない場合の罰則はありますか?

    A. 直接的な罰則規定はありませんが、行政指導の対象となります。

    65歳までの雇用確保義務を履行しない場合、まずハローワークや労働局から指導や助言が行われます。それでも改善されない場合は勧告が出され、最終的には企業名が公表される可能性がありますが、個別事案により異なります(出典:高年齢者雇用安定法)。企業名公表は、企業の社会的信用を大きく損なうリスクとなります。

    高年齢者雇用に活用できる助成金・支援制度

    高年齢者の雇用環境整備にはコストが伴いますが、国や自治体は様々な支援制度を用意しています。

    65歳超雇用推進助成金の概要と申請のポイント

    独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が管轄する助成金で、高年齢者の雇用促進に取り組む事業主を支援します。主に以下のコースがあります(JEED報告書 p.173-190 参照、改正動向詳細確認を)。

    ※表は画像化推奨(アクセシビリティ考慮)、詳細はテキスト参照。

    コース名内容
    65歳超継続雇用促進コース65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入などを行った事業主に助成。
    高年齢者評価制度等雇用管理改善コース高年齢者向けの雇用管理制度(評価・処遇制度など)の整備を行った事業主に助成。
    高年齢者無期雇用転換コース50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に助成。

    これらの助成金を活用することで、制度導入の費用負担を軽減できます。申請には詳細な要件があるため、まずはJEEDの公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします。助成金申請のノウハウは、関連記事「【2024年版】中小企業が使える助成金一覧と申請のコツ」(当サイト関連記事、詳細は免責事項参照)でも解説しています。

    自治体独自の補助金制度にも注目

    国の制度とは別に、都道府県や市区町村が独自の補助金・奨励金制度を設けている場合があります。例えば、東京都では「高齢者活躍推進事業助成金」などがあります(出典:産業労働局)。地域により内容が異なるため、管轄自治体確認を(全国一律適用不可)。

    これらの制度は、お住まいの地域によって内容が大きく異なるため、自社の所在地を管轄する自治体のウェブサイトなどで確認してみてください。

    まとめ:高年齢者雇用義務化への対応チェックリスト

    最後に、企業が高年齢者雇用安定法に対応するために確認すべき項目をチェックリストにまとめました。自社の取り組み状況と照らし合わせてご活用ください。

    チェック項目対応状況備考
    【現状把握】自社の就業規則で定年年齢を確認したか?60歳未満は無効。
    【義務対応】65歳までの雇用確保措置を講じているか?(定年引上げ/廃止/継続雇用)全企業必須。
    【2025年改正対応】継続雇用制度の場合、希望者全員を対象とする規定になっているか?2025年4月1日までに就業規則の改定が必要。
    【努力義務対応】70歳までの就業機会確保措置について検討しているか?努力義務だが、将来の義務化も見据え検討を推奨。
    【労務手続】就業規則の変更手続き(意見聴取・届出)を適切に行ったか?常時10人以上の事業場は必須。
    【届出義務】従業員101人以上の企業の場合、雇用状況報告書を提出しているか?毎年6月1日時点の状況を報告。
    【支援活用】65歳超雇用推進助成金などの活用を検討したか?制度導入のコスト負担軽減に。

    高年齢者雇用の義務化は、単なる法令遵守の問題ではありません。経験豊富な人材を活かし、企業の持続的な成長に繋げるための重要な経営戦略です。本記事を参考に、早期の対応を進めていきましょう。

    免責事項

    本記事は、2025年11月時点の法令情報に基づき、高年齢者の雇用に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものです。個別具体的な事案に対する法的な助言・見解を示すものではありません。

    法令は改正される可能性があるため、最新の法令や通達をご確認いただくとともに、具体的な対応については、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。個別の契約条項や就業規則の内容が最終的な判断において優先されます。

    参考資料

    • 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」(2021年時点、最新改正は2025年確認を)(企業解説参考、利害関係: 省庁公式) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html
    • 厚生労働省「高年齢者・障害者等の雇用支援」(2023年時点、最新改正は2025年確認を)(企業解説参考、利害関係: 省庁公式) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html
    • 厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告、障害者雇用状況報告」(2025年予定、最新版e-Gov確認)(企業解説参考、利害関係: 省庁公式)
    • e-Gov法令検索「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(逐条確認推奨: 第9条雇用確保義務、第10条の2努力義務)(企業解説参考、利害関係: 公的法令データベース) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000104
    • 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「令和6事業年度における高年齢者雇用に関する助成金等について」(2024年)(企業解説参考、利害関係: 公的機関) https://www.jeed.go.jp/
    • 日本労働組合総連合会「継続雇用制度について」(2024年)(企業解説参考、利害関係: 労働団体)
    • 城南コンサルタンツグループ「中小企業の高年齢者雇用対策」(2024年)(企業解説参考、利害関係: コンサルティング提供事業者)



    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2021年に植野法律事務所を開所。

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