【2025年施行】建設業法等改正とは?最新の改正ポイントを解説
お役立ち記事一覧に戻る2025年に施行される建設業法等の改正は、多岐にわたるポイントで建設業界に大きな影響を与える見込みです。建設技能者の処遇改善や資材価格高騰への対応など、多方面から業界を見直す動きが強化される点が特徴といえます。
改正のポイント |
ポイント➀労働者の処遇改善 ● 労働者処遇確保の努力義務化 ● 標準労務費の基準作成・勧告 ● 著しく低い見積りの作成禁止 ● 原価割れ契約の締結禁止 ポイント➁資材高騰への対応 ● リスク情報の提供義務化 ● 請負代金変更方法の明確化 ● 変更協議への誠実対応義務化 ポイント➂働き方改革と生産性向上 ● 著しく短い工期契約の締結禁止 ● 現場技術者専任義務の合理化 ● 施工体制台帳提出義務の合理化 ● ICT活用による現場管理の推進 |
この法改正では、人材不足に直面する建設業の労働環境を変革するために、実践的かつ持続可能な改革が求められています。
本記事では、改正の背景や主な改正内容を整理し、これからの建設事業者がどのように対応していくかを解説します。

POINT
本記事では改正ポイントを3つ挙げていますが、いずれも「労働者の処遇改善」→「担い手確保」→「持続可能な労働環境」とすることが目的です。
Contents
改正の背景:建設業界を取り巻く現状
背景1:人材不足・高齢化による担い手確保の課題
近年、建設業界では人材不足や高齢化が深刻化しています。若年世代の建設業離れは深刻で、新たな人材が育ちにくい環境が続いています。一方、経験豊富なベテラン世代が引退期を迎え、大量離職の時代に突入しました。これにより熟練技術が継承されにくくなり、業界全体の技術力確保に大きな影響が出ています。
背景2:資材価格高騰と下請代金の引き上げ
グローバル経済の変動を背景に、建設資材の価格が予想を超えるペースで上昇しています。下請代金にも影響が及び、ときには適切な労務費支払いが難しくなる懸念もあります。十分な労務費が確保されないと業界全体のモチベーションが低下し、品質や安全面にも影響を及ぼしかねません。
背景3:働き方改革と長時間労働是正
従来の建設業界では、工期の厳しさから長時間労働が当たり前の状態に陥りがちでした。近年の働き方改革の潮流により、極端に短い工期設定の禁止やデジタル技術の導入が加速してきています。こうした取り組みは、人材確保の観点からも優先度が高く、業界の労働環境を抜本的に見直す絶好の機会となっています。
2025年の建設業法等改正の施行時期と対象範囲
2024年6月7日に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、遅くとも2025年12月までに施行される見込みです。
主な改正ポイント1:労働者の処遇改善(適正賃金化)
建設技能者の賃金や労務費を適正に確保するため、建設業法の改正では、「労働者の処遇改善」が大きな柱となっています。人手不足が深刻化する建設業界では、適正な賃金や働き方を実現するため、法令による対応が本格化します。
改正ポイント | 内容の概要 | 企業に求められる対応例 |
労働者処遇確保の努力義務化 | 建設業者に対し、適切な賃金水準や労働条件を確保する努力義務 (改正建設業法25条の27第2項) | 賃金水準の見直し、福利厚生の充実 |
標準労務費の基準作成・勧告 | 国が標準的な労務費の目安(建設工事の労務費に関する基準)を示し、著しく低い賃金設定を是正する (改正建設業法34条2項) | 見積もり時に国の基準を参考に価格設定 |
著しく低い見積りの作成・依頼を禁止 | 必要な経費を無視した極端に低い見積りを行うことを禁止(改正建設業法20条) | 適正原価・利益を見込んだ積算の徹底 |
原価割れ契約の締結禁止 | 人件費や材料費などを下回る契約を締結することを禁止 (改正建設業法19条の3) | 採算性を確認したうえでの契約締結 |
●「労働者処遇確保の努力義務化」とは、受注者が技能労働者に対して適正な賃金を支払うよう努める義務を明文化したものです。法的強制力はないものの、今後の処分や評価に影響する可能性があります。
●「標準労務費の基準作成・勧告」では、国が労務費の適正な基準を示し、これを下回る見積もりに対しては勧告を行えるようになります。
●「著しく低い見積りの作成禁止」や「原価割れ契約の締結禁止」も新設され、コスト削減を名目に人件費を過度に圧縮する行為は法令違反と見なされる可能性があります。
これらの改正は、長時間労働や低賃金といった業界の構造的課題に対応し、持続可能な雇用環境を整備するための重要な一歩です。
主な改正ポイント2:資材価格高騰への対応
近年、資材価格の急騰や供給不安が建設業界に大きな影響を与えています。今回の建設業法改正では、資材価格変動リスクへの適切な対応を法的に後押しするため、次のような措置が講じられます。

資材の価格が上がり、当初の金額では収まらなくなってしまった…という場合に、人件費を削って補填することにならないための改正です。
改正ポイント | 内容の概要 | 企業に求められる対応例 |
リスク情報の提供義務化 | 発注者が、資材高騰や不足などのリスク情報を受注者に適切に共有することを義務化(改正建設業法20条の2第2項)。 | 契約前に工期または価格変動リスクを明確に伝える |
請負代金変更方法の明確化 | 契約変更する場合における請負代金の変更の手順・根拠を定めることを義務化(改正建設業法19条1項8号)。 | 契約書に金額の算定方法を記載する |
資材高騰時の変更協議への誠実対応義務化 | 契約内容の変更が必要となった場合、発注者・受注者双方に誠実な協議を行うことを義務付け(改正建設業法20条の2)。 | 協議記録の作成、誠実な対応姿勢を社内徹底 |
建設資材の高騰は予測が難しく、請負契約の段階でリスクをどのように分担するかが大きな課題です。今回の改正では、資材価格の変動が発生した場合に業者間で協議を行い、代金や工期を適切に見直すためのルールが強調されました。
これにより、極端な価格高騰が発生した際でも、施工業者と発注者・下請企業が事前に合意したルールに基づいて協議を進めやすくなります。計画的なリスク分散や適正な利益配分は、建設業界全体の安定に欠かせない要素となるでしょう。
主な改正ポイント3:働き方改革と生産性向上
従来の建設業界では現場管理において紙ベースの書類が多く、労力がかかるうえミスや情報伝達の遅れも発生しやすい状況でした。そこでICTの活用やデジタル技術の導入が強く推奨され、現場監理や工期管理を効率化する取り組みが進んでいます。
働き方改革の点では、長時間労働の是正を中心に、若い世代が魅力を感じる業界づくりが求められています。デジタル化を進めることで一人当たりの作業量が削減され、技能者のケガや疲労を軽減するだけでなく、工程全体を見直す好機にもなっています。
改正ポイント | 内容の概要 | 企業に求められる対応例 |
著しく短い工期契約の締結禁止 | 注文者側に従来課されていた実現困難な短工期での契約の禁止が、請け負う建設業者にも適用される (改正建設業法19条の5第2項) | 工期設定時に施工条件や人員計画を十分に検討 |
現場技術者専任義務の合理化 | 公共性のある施設・工作物等の建設工事における現場技術者の設置義務を、ICT活用などを要件に緩和 (改正建設業法26条3項・26条の5) | ICT活用の検討 |
施工体制台帳の提出義務の合理化 | 情報通信技術を利用し工事現場の施工体制を確認できる措置を講じている場合における台帳提出義務の免除 (改正公共工事適正化促進法15条2項) | ICT活用の検討 |
ICT活用による現場管理の推進 | 特定建設業者に対し適正な施工を確保するために必要な措置を講ずる努力義務の新設 (改正建設業法25条の28) | ICT活用の検討 |
ICT導入の例
● クラウドで進捗・品質・安全管理を一元化
● 電子黒板で写真整理・報告書作成を自動化
● ドローンや3Dスキャンで測量・進捗確認を効率化
事業者が押さえるべき実務上のチェックポイント例
✅ 見積もり段階で標準労務費・原価を確保しているか
✅ 変更協議や資材価格変動への誠実対応ルールを整備しているか
✅請負契約書のひな形の見直し(請負代金を変更する場合の金額の算定方法を記載)
✅ ICT活用の検討
国土交通省や業界団体の情報発信を定期的にチェックし、疑問点があれば専門家に相談する習慣をつけるとリスクを減らせます。
法改正の動向を常に把握し、契約書や見積書などの書類整備を行うとともに、デジタル技術の導入や適切な工程管理によってコスト・スケジュールの把握精度を高めると効果的です。適正な労務費と契約条件を守る仕組みを整えることで違反リスクを低減し、さらに労働環境の改善にもつながります
建設業法等改正が及ぼすメリット・デメリット
メリットとしては、技能者の処遇改善による業界イメージの向上や、ICT活用による生産性向上が挙げられます。労働環境が改善すれば、若年世代の参入も見込め、長期的には業界全体の活性化につながるでしょう。
一方で、法令対応に伴う書類整備やシステム投資などが事業者の負担となる可能性があります。特に資金力の低い中小企業にとっては、コスト面のハードルがあるため、補助金や助成制度を活用した柔軟な対応が求められます。
まとめ:2025年の建設業法等改正に向けて入念な準備を
改正施行にあたり、あらゆる観点から情報を整理し、早めの準備を進めることが鍵となります。
2025年の改正は、建設業界の働き方や契約内容を根本的に見直すための大きな節目といえます。人材不足の解消や資材価格変動への対応など、課題を総合的にとらえて柔軟に対策を立案しなければなりません。
今後も追加的な改正や省令・通達が発行される可能性があるため、最新情報の収集と社内体制の見直しを続けることが不可欠です。適正な労務費の確保や契約管理の強化を図ることで、業界全体の持続的な発展に寄与していくことが期待されます。

植野洋平 |弁護士(第二東京弁護士会)
検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2022年に植野法律事務所を開所。