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  • 秘密保持契約書(NDA)の目的条項とは?書き方と考え方

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    秘密保持契約書に限らず、契約書には目的が記載されているけど、
    具体的に書いてあったりなかったり…どんな観点でレビュー(ドラフト)すればいいんだろう?

    はじめに

    秘密保持契約書(NDA)に限らず、契約書に目的が記載されているのを目にすることがあると思いますが、契約の目的を記載することは、非常に重要な役割をもつものとなっています。
    しかし目的を記載することそれ自体は当たり前に感じられ、存在感なく読み飛ばしそうになった経験はないでしょうか?
    また、重要であることがわかっていても、詳細に書いてあったり、はたまたほとんど書いてなかったりと書き方は様々です。
    本記事では契約書のレビュー(ドラフト)にまだ慣れていない法務担当者の方へ、契約書の目的についての考え方、注意点をご紹介します。

    契約書の目的の重要性

    秘密保持契約書(NDA)では、のちに秘密情報の定義や秘密保持義務の条項が登場します。
    秘密保持情報の定義ではどんな情報を秘密として管理するかを明確にし、
    秘密保持義務では、秘密情報の管理の仕方などが記載されており、秘密保持契約書(NDA)の最も重要な条項となっています。

    しかし本記事の「目的」もさらっと記載されていることもありますが、これらに匹敵する重要な条項となっています。
    なぜなら、先述の重要条項に与える影響が大きいためです。
    例えば、A社とB社が、自社の商品の販売パートナーとなってもらうべく秘密保持契約を交わすことがあった場合、いくら秘密の定義や義務の方法をしっかり定めていても、仮に目的が「M&Aのため」などの無関係な内容になっていれば、本来秘密としたかった情報が秘密情報の射程外となり、秘密として管理してもらえなくなる可能性があります。

    このように、意味のない契約内容とならないよう、契約書の目的には注意をしてレビューしましょう。

    また、「目的外利用の禁止」という条項もよく目にします。これは秘密情報を目的外の利用をさせないための重要な条項ですが、やはり正確に目的を定めていなければ意味のない条項となってしまいます。

    契約書の目的をレビューする前に ー 事業サイドに確認しよう

    早速レビューしてみよう!どんな目的が書いてあるかな?

    記載例
    記載がないパターン
     甲及び乙は、相互に開示する情報の取り扱いに関し、秘密保持契約を締結する。

    具体的でないパターン
     甲及び乙は、甲乙間の取引の検討の目的で秘密保持契約を締結する。

    具体的に記載されているパターン
     甲及び乙は、〇〇(商品名)の販売パートナーに関する協力の可能性を検討するために秘密保持契約を締結する。


    レビューをする際、実際に記載されている「目的」を見て、どのようにチェックするか考え始められているかと思います。

    確かに上記のような目的を読んで、作成者が意図している目的の内容はつかめるため、想像してレビューすることはできます。特に秘密保持契約書(NDA)などは頻繁に交わされ、スピード感も求められるので、大体の目的がわかればそのままレビューされることも多いでしょう。

    しかしできればレビューを始める前に、「どうしてこの契約を締結するのか?」を俯瞰して問い直していただくことをお勧めします。単純に文字を追うより、契約書を締結する動機に注目したほうが視野が広く、ずれが起きにくくなるからです。

    そしてそれは現場の事業サイドに尋ねなければわからないことでもあります。
    実際行われる取引と異なる内容になっていないか、不足していないか、契約書の内容との整合性を確認しましょう。

    甲乙間の検討って書いてるけど、そういえば〇〇もすることになりました

    先方からポンと渡されて、、

    事業サイドになぜ締結するんですか?とたずねると、目的以外にもさまざまな事情が出てくることもあります。そういった事情もまた、目的を定めるうえで重要な情報となります。

    契約書の目的はどのくらい書く?

    先述のように、契約書の目的は締結内容の基礎となるので、正確に記載する必要があります。では正確に記載するために、詳細な内容を定める方が良いのでしょうか?

    詳細に記載するデメリット
    ・当初の予定よりも、幅広く検討してくことになった場合、たびたび交わすことになり工数が増加する。

    抽象的に記載するデメリット
    ・あるサービスの協業検討をする際に抽象的に記載した場合、他のサービスにも効力が及ぶ可能性がある。
    ・また、過去に締結した秘密保持契約書の目的が抽象的だったために、のちのちに発生する取引にも効力が及ぶ可能性がある。

    今後どうなっていくのかある程度先を見越して決める必要がありますが、法務に意思があるわけではないので、原則事業サイドに確認してレビューしましょう。

    ただ、事業サイドに確認したけどあいまいな回答が返ってくることもあるかと思います。

    今はこの予定だけど、今後はどうなるかわからない

    今後の展開が不透明な場合は、ある程度抽象的な目的にとどめたり、「今回の目的限りのNDAにしますね」と区切って明確に記載することも考えられます。
    このように、どういった塩梅に落とし込むかが法務の仕事となります。

    秘密保持契約書の目的の種類 - ケースごとの特徴

    目的が変われば契約内容も変わるよね…。目的の種類によって気を付けるポイントってあるのかな?

    ■取引に関する秘密保持契約(業務委託契約書やサービス利用契約書)の特徴
    サービス利用に関する秘密保持契約では、別途サービス利用規約や、申込書、解約書などがある場合は、秘密保持契約書と矛盾していないか確認しておく必要があります。 
    もし条項が併存したり、矛盾したりしていた場合は、優先(適用)関係を明確にする必要があります。この場合、秘密保持契約書の方で上書きすることが多く、「サービス利用規約の秘密保持条項にかかわらず、本契約が優先する」などど優先条項を入れることになります。

    ■M&A、業務提携、研究開発の特徴
    これらは正式な契約書を交わすの際に秘密保持条項を入れるため、M&A等の目的で秘密保持契約書を交わす際は検討目的である場合が多いです。またM&Aは高度な秘密情報を交わされるほか、株式の扱いなど、シビアな話も多いのが特徴です。

    ・多くの秘密情報を取り扱う可能性が高いので、秘密情報の定義は広め(例:一切の情報)にとっておくとやり取りしやすくなります。
    ・秘密秘密保持契約の内容だけでなく、契約の「存在」自体も秘密とすることがおすすめです。
    ・知的財産の権利帰属の条項を入れる場合が多いです。
    ・秘密情報を開示する範囲を、特定の氏名を記載するなど、かなり限定する場合もあります。
    ・また検討を目的とする場合は、長期間実施されることは想定しづらいため、有効期間の自動更新を付ける必要性は低いでしょう。 

    ■従業員の雇用時、退職時、個人の業務委託の特徴
    ・知的財産の権利帰属の条項を入れる場合が多いです。

    まとめ

    秘密保持契約書(NDA)における「目的」は、しばしば見過ごされがちですが、契約全体の解釈や有効性に直結する重要な条項です。目的の記載が曖昧であれば、秘密情報の範囲や秘密保持義務にズレが生じ、契約の効力が損なわれる恐れもあります。だからこそ、レビューの際には表面的な文言だけで判断せず、「なぜこの契約を締結するのか」という視点から、事業サイドと対話を重ねて実態との整合性を確認することが求められます。
    また、目的条項は今後の展開も見据えたうえでバランスよく記載することが重要です。形式的な一文ではなく、実務に直結する「意味のある一文」として意識し、丁寧に取り扱っていきましょう。

    植野洋平弁護士(第二東京弁護士会)
     検察庁やベンチャー企業を経て2018年より上場企業で勤務し、法務部長・IR部長やコーポレート本部の責任者を経て、2023年より執行役員として広報・IR・コーポレートブランディング含めたグループコーポレートを管掌。並行して、今までの経験を活かし法務を中心に企業の課題を解決したいと考え、2022年に植野法律事務所を開所。